back number

タイトル ライブラリアン・ラプソディ

47 雨とちぐはぐな休日

 雨の日の動物園。にぎやかな雰囲気とは無縁、しっとり静かな園内からは、ほのか?に獣のにおいが漂っていた(と思う)。問題は獣のにおい。五つ年下の妹は、幼いころから臭いに敏感で、楽しいはずの動物園への遠足も彼女にとっては苦痛だった様子。子ども会での遠足の写真には、笑顔で映る私たちに交じって一人だけ暗い顔でうつむきかげんで納まっている。本当に楽しくなさそう・・・。ということで、雨の日なら動物もそれほど臭くないはず!と、リベンジとばかりに雨の日に動物園行きを決行、だがやはり彼女にはあまり好評ではなく、大人の遠足は失敗に終わったというトホホなおはなし。

 「雨の休日の過ごし方は?」という、働く女性のお役立ち情報が満載のサイト「マイナビウーマン」(更新2023.8.8)のアンケートによると、みんなの思い出として、水族館やプラネタリウムでのデートや普段は混んでいるホテルのラウンジでの休息などが並び、相合傘で恋人と親密に!なんていうものもある。さすがに動物園はないよね、でもMYベスト思い出はやはり雨の日の動物園である。
 さて、「雨の休日の過ごし方」として家でのんびりDVDの鑑賞、家の片づけや掃除が上位に挙げられ、ジムで体を動かすなんていうのもあるけど、料理や読書をするも多数派、やっぱりしっくりくる。雨音を聞きながらの読書、最高じゃない⁉雨を眺めながらの煮込み料理、ついでにちょっと一杯やりながらなんていうのも気分がいい。

挿絵1
※挿絵はクリックで拡大します。

 「晴耕雨読(せいこう-うどく)」とは、「晴れた日には田畑を耕し、雨の日には家にこもって読書をすること。悠々自適の生活を送ることをいう。」とのこと(デジタル大辞泉)。オンライン辞書・事典検索サイトであるジャパンナレッジで「晴耕雨読」と入力すると、一番上に表示される。「ググるよりもジャパンナレッジ(契約しないと利用できないが)」、「一日一回ジャパンナレッジ」を(勝手に)推奨する私としては、まずこれを開くのがルーティン。さてさて、「晴耕雨読」とはなんと素敵な響き。うっとりしながらサイトを見ていると、鹿児島県に「晴耕雨読」という名の芋焼酎が存在することを発見!キターー♡

 日本は四季を通じて雨が多い国であり、コメ作りには夏の高温と水が必要で、災害と恵みの両方を持っている雨と付き合いながら暮らしてきたため、日本には雨のことばが多いと、『雨のことば辞典』(講談社、2000年)のまえがきにある。「愛雨(あいう)」-雨を好むこと、「潦(にわたずみ)」-降った雨が地面にたまった水たまり、「袖の雨(そでのあめ)」-涙で袖がぬれること、「星雨(せいう)」-たくさんの流星が流れるさまを雨にたとえた表現など、心にしみわたるような雨のことばである。
 
 18世紀末、気象に対する人間の感性が研ぎ澄まされ、ひとつのレトリックが形成され、洗練されていった。フランスの作家ベルナルダン・ド・サン=ピエール(1737-1814)は『自然の研究』のなかで、雨について逆説的に「悪天候」がもたらす快楽を強調した。「たとえばどしゃ降りで、苔むした古い壁にそって雨水が流れるのを目にして、雨音にまじる風のつぶやきを聞くとき、私は悦びを感じる。その憂いに満ちた音は、夜のあいだ私を穏やかで深い眠りへといざなう」と。彼は雨を味わうためには、「われわれの魂が旅し、肉体は休息」しなければならないと述べている。
 
 さて、芋焼酎「晴耕雨読」は、鼻に抜けるさわやかな芋の香りが清々しい。WOWOWのオリジナルドラマ、小林聡美主演の「ペンションメッツァ」。そのエンディングテーマ「空飛び猫」、大貫妙子の優しい声が頭の中にこだまする。雨が降れば立ち止まればいい、そんなフレーズあったよな。ちょっとセンチメンタルな気分になりながら、晴れた休日に「晴耕雨読」を片手に空をあおぐ、こんなちぐはぐな日もあっていい。

Copyright (C) yukensha All Rights Reserved.

design pondt.com テンプレート