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タイトル Hidden Library,Invisible Librarian

12. はなをくんくん

挿絵1
『はなをくんくん』
ルース・クラウス 文,
マーク・シーモント 絵,
きじまはじめ 訳,
福音館書店,1967

 皆様こんにちは。3月を迎え、少しずつ春のきざしを感じられる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか?
 昔から1月は行く月、2月は逃げる月、3月は去る月、と言われ、12月の師走からあっという間に過ぎ去ってしまう印象があります。かくいう私も、新しい年には、あれもやろう、これにも挑戦しよう、なんて思っていたのですが、気づいたら・・・という毎日です。
 今年は、自分にとっての「今」を大切にして過ごしたいと思っています。忙しさを理由に、ついつい何かをしながらの行動をしてしまうのですが、今年は、自分の「今」に向き合って、感覚を大切にしたいです。特に、ごはん。スマホやテレビを見ながら食事することが当たり前になっていました。いきなり全く見ない、というのは難しいですが、できる限り、ごはんに「全集中」し、味わう時間を作りたいです。

 3月にお勧めしたい本で真っ先に思いついたのが、『はなをくんくん』(※1)です。この本が生まれたのは、半世紀以上前。ですが、今もなお、愛され続けている絵本の一つです。
 レモンイエローに縁どられた表紙を開くと、一転モノトーンの世界が広がります。雪の中、気持ちよさそうに冬眠する動物たち。そこにみんなが目を覚まし、鼻をくんくんさせ始め、香りをたどって走り始めます。
 描かれている動物たちは、とても表情豊か。ぐっすり眠っている姿、寝ぼけまなこの姿、目標に向かって走る姿、喜びの姿、どの姿も生き生きしています。その絵に添えられた、繰り返される言葉もテンポよく、疾走感が感じられます。また、この本の原題は『THE HAPPY DAY』。これを『はなをくんくん』と訳した訳者のセンスがあふれています。
 一見地味に見える絵本ですが、ラストのシーンが心に残る、私も大好きな一冊です。冬から春へと向かうこの時期に、ぜひ手に取っていただけたら嬉しいです。

 次の本も、春の訪れを感じる一冊、『ぽとんぽとんはなんのおと』(※2)です。この本は、冬ごもりの穴の中を場面に、クマの親子の優しい会話でストーリーが進んでいきます。まだ穴の外を知らないぼうや(子グマ)は、聞こえた音の正体が何なのか、母さんグマに質問するのです。
 登場人物?登場クマさんの居場所は全く変わらないのですが、音の正体が描かれることで、視点が変わり、イメージが膨らんで、ちっとも飽きさせません。
 優しい語り口と優しい色使いは、おやすみなさいの絵本としてもおすすめです。

 今回ご紹介した二冊は、何十年も愛されてきた絵本たちです。今、人気がある本や書店に並んでいる本と比べると、地味に見えるかもしれません。ですが、改めて読んでみると時代を超えた良さ、といいますか、時代を感じさせない良さがあふれているように感じます。
 カラフルな本がたくさん並んでいる図書館の絵本棚では、こういった味わいの本とは、なかなか出会いにくいようです。新しい本、人気の本と合わせて、「こういう本もあるんだよ」、とお伝えするのも図書館司書の力の見せどころ。このコラムを通して、「ちょっと読んでみようかな」という方が一人でも増えたらいいなぁと願っています。


  • ※1 『はなをくんくん』
    ルース・クラウス 文,マーク・シーモント 絵,きじまはじめ 訳,
    福音館書店,1967
  • ※2 『ぽとんぽとんはなんのおと』
    神沢利子 作, 平山英三 絵, 福音館書店, 1985

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