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タイトル Hidden Library,Invisible Librarian

7. 顔を知らない仲間

終業時刻。
でも、今日は、まだ帰りません。

院内の勉強会に参加するからです。

医務課のスタッフが月に一度、医学の基本を学ぶための勉強会を開催することを知りました。通知にあった「どなたでも参加可能です」の文字を見て、すぐに「司書でも参加できますか?」とメッセージを送りました。

退勤時刻を登録し、開始時刻までデスクで待機。
開始時刻10分前になったので、指定の会議室へ。

司書が「失礼します」と声をかけて中に入ると、すでに着席していた人たちが振り返り、「この人は誰だろう?」という表情で会釈してくれました。

(ば、場違いだったかな…)

うろたえる司書へ、会議室の前方から声がかかりました。

「あら!司書さんも参加してくれたんですね」

今回の講師である、Nさんです。

Nさんは、長年この病院の教育研修や人事を担当し、定年で退職してからは人材育成の仕事をしています。司書の採用時、面接官を担当してくれたのもNさんでした。自分のことを知っている人がいることにほっとした司書は、Nさんに笑顔で会釈をし、会議室の最後列にそっと着席しました。

「では、そろそろはじめましょうか。といっても、今日は最初ですから、勉強会の概要を簡単にお話しして、あとは参加者がお互いを知る時間にしましょう」

Nさんの講義がはじまりました。

「今回、この勉強会に参加している人のほとんどは、医療専門職を支える立場です。みなさんが、診察や投薬、看護を行うことはありません。なのに、なぜ、みなさんが医学を学ぶことが求められるのか。それは、みなさんと医療専門職とのコミュニケーションをより円滑にすることと同時に、医療の現場で働くチームの一員として、自分の仕事の先にいる患者さんやご家族のことを、より深く強く意識してほしいからです」

司書はこの言葉を聞き、あることを思い出しました。

続いて、第二回からの内容や習得状況の確認についての説明があり、最後に自己紹介をする時間になりました。

病院の総合受付を担当するスタッフ。
病棟クラークを担当するスタッフ。
診療報酬の請求を担当するスタッフ。
地域連携室で支援業務を担当するスタッフ。

病院は、医療の専門職だけで成り立ちません。この勉強会に参加しているスタッフの仕事以外にも、たくさんの役割があります。さまざまな仕事をする人たちがさまざまな角度から、病院を、そして、この地域の医療を支えています。

(顔を知らなくても、直接交流が無くても、みんな、チームの仲間なんだよな。仲間の仕事は、ちゃんと知っておきたい。自分の仕事も、知ってもらえたら。顔ではなく、仕事を知ってもらいたいな)

司書の番になりました。

「図書館に勤務しています。よく図書館に来てくださるのは、医師や看護師なんですけれど、病院図書館はすべての病院職員のためにありますので、みなさんにも活用していただけたらうれしいです」

病院に図書館ってあるの?駅前にある図書館みたいなもの?病院の中で本が借りられるの?という声が挙がると、Nさんがフォローをいれてくれました。

「そうなんですよ、この病院には、図書館があるんです。仕事や学習などで裏付けのある情報が必要であれば、司書さんをどんどん頼ってくださいね」

なるほど!という表情の、みなさん。

(あ、そうか!役割の説明を忘れてしまった…)

司書はただただ、みんなに頭を下げました。

第一回の勉強会が終わりました。

司書は、帰路につきながら、冒頭のNさんの言葉をきっかけに思い出したことを反芻していました。それは以前、医学系司書の主催する専門用語を学ぶ勉強会に参加した時、最後に参加者全員に向けて、講師が発した言葉でした。

「今回の講義で説明したことを理解しなくても、司書の仕事はできますし、図書館の運営に大きな影響が出ることはないでしょう。でも、利用者から信頼される司書のいる図書館でいられるかどうかは別の話です。あなたは、利用者にとってどんな司書になりたいですか。なにより、あなた自身がどんな図書館を利用したいですか」

利用者のために。
患者や患者家族のために。

顔を知らなくても、仲間。
顔を知らなくても、大切にしたい人。

司書として、できることはなんだろう。

司書でい続ける限り、考え続けよう。
考え続けるためにも、学び続けよう。

第二回の勉強会が、楽しみです。

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