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タイトル Hidden Library,Invisible Librarian

19. よかったね ネッドくん

挿絵1
『よかったねネッドくん』
レミー・シャーリップ 作,
やぎたよしこ 訳,
偕成社,1969

 皆様こんにちは。10月がスタートしました。私の勤務する図書館は10月がお誕生日。それも今年2024年は20歳を迎えます。小さな図書館ですが、楽しみに通ってくださる皆さんのおかげだなぁと感謝でいっぱいです。
 さらに私事ですが、私も10月生まれ。「もう誕生日という年じゃないわ」とか「いまさら誕生日って言ってもねぇ」なんて言葉も耳にするのですが、私にとっては、誕生日ってやはり記念日。年を重ねるごとに、日々の生活を送ることのできるありがたさを、ひしひしと感じております。

 さてさて、そんなわけで、今回は「誕生日パーティ」をテーマに絵本を選んでみました。
 一冊目に紹介するのは『よかったねネッドくん』(※1)です。ネッドくんのもとに届く1通の手紙は、パーティへのお誘いです。よかったね、と喜んだのもつかの間、「でも、たいへん!」なことが。この絵本は「よかった」と「でも、たいへん!」が繰り返されて進んでいきます。ネッドくんは無事にパーティに参加できるのでしょうか。
 ドキドキハラハラのストーリー展開に、引き込まれてしまうのは間違いありません。そして、この絵本の魅力は、「よかった」のページはカラー、「でも、たいへん!」のページはモノクロで描かれています。テンポよく進むストーリーを視覚的にもわかりやすく伝えることができているのも、すばらしいですね。ボランティアさんや親子の読み聞かせ講座などでも取り上げることの多い、私の大好きな絵本です。

 二冊目は、『おたすけこびと』(※2)です。この本で大活躍するのは、色とりどりの洋服を着た小人たちです。仕事の依頼を受けた小人たちは、ミキサー車や高所作業車、ショベルカーなどの「はたらく車」で出かけて、仕事開始!でも、材料は卵にバター、小麦粉、砂糖、膨らし粉。さてさて、何ができあがるのでしょうか。
 小人たちは一人ひとり表情豊かで、かわいらしく、働きもの。ついつい見入ってしまい、ページを繰る手がゆっくりになってしまいます。また、描かれている作業車も本格的。工事車両とお料理のギャップが楽しい絵本です。ぜひ、ゆっくりじっくり味わってみてください。

 三冊目に選んだのは、『たんじょうび』(※3)です。この絵本もなんと10月生まれ(日本での初版発行日が1965年10月1日です)でした。
 物語は、森のそばの野原にある家が舞台です。そこにはリゼッテおばあちゃんとたくさんの動物たちが暮らしています。今日はリゼッテおばあちゃんの76歳の誕生日。犬のベロを中心に、動物たちはお祝いの準備を始めます。
 動物たちの奮闘ぶりがとてもかわいい絵本でもあり、おばあちゃんをびっくりさせることになるスペシャルプレゼントは、この本の姉妹編ともいえる『こねこのぴっち』(※4)(※5)にもつながっていくしかけになっています。
 この絵本は、私にとって大切な思い出の一冊でもあります。図書館で働き始めのころ、小学生のお兄ちゃんといつも図書館に来る男の子がいました。おうちの事情もあってか、ほぼ毎日、夕方は図書館で過ごしていました。お兄ちゃんは自分で好きな本を読んでいますが、弟くんはまだ自分で本が読めないこともあり、カウンターに座っている職員にずっとべったりくっついています。ある時、その子に、「絵本読んでもいいかな?」と聞いてみると、「読んで!!」と食いついてくれました。犬と猫が好きだ、という彼のために選んだのが『たんじょうび』と『こねこのぴっち』でした。
 どちらかというとやんちゃなイメージのあった弟くんですが、しっかり文章量のある絵本を、真剣にじっくり聞いてくれました。その後も、何度もこの絵本を読んでほしいと声をかけてくれるようにまでなりました。
 成長し、いつしか図書館に現れなくなってしまったのですが、彼の心の中には、フィッシャーの描いた動物たちが残っていたのではないでしょうか。いつか再会できたならば、話をしたいなと思っています。

 誰にも訪れる一年に一度の大切な誕生日。「絵本で楽しむ誕生日」というのもいかがでしょうか。すべての方に「ハッピーバースディ!生まれてきてくれてありがとう」を送ります。


  • ※1『よかったねネッドくん』<英文つき>,
    レミー・シャーリップ 作,やぎたよしこ 訳,偕成社,1969
  • ※2『おたすけこびと』,
    なかがわちひろ 文,コヨセ・ジュンジ 絵,徳間書店,2007
  • ※3『たんじょうび』,
    ハンス・フィッシャー 文・絵,おおつかゆうぞう 訳, 福音館書店,1965
  • ※4『こねこのぴっち』,
    ハンス・フィッシャー 文・絵,石井桃子 訳,岩波書店,1954
  • ※5日本での出版はこちらが早いのですが、ストーリー的には※3、※4の順に読まれることをお勧めします。

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