
こんばんは。秋から冬にかけて読みたくなる本に、いしいしんじさんの『プラネタリウムのふたご』があるのですが、今年はちょっとフライングして夏の終わりに読んでみました。世間から聞こえてくる正しさを競う声や、ばつの悪さを与えるためだけの皮肉が、少し自分から遠ざかった気がして、物語の力を改めて実感しました。ただ、やっぱり冬に読むべきだったなと、自分のタイミング創造力の低さにため息も出たりしていました。
さて、「ペルソナ・ノン・グラータ」。私は初めて耳にした言葉でしたが、「好ましからざる人物」という意味なのですね。ちょっと鋭利なシルエット。手紙という媒体で「あなたの考えを聞きたい」というのは、だいぶ強烈な文章になるなあと少し笑ってしまいました。私に跳躍を求めるハードルの高さは合っていますか?
では、考えます。
とりあえず、そもそも「図書館に入れたくない本、制限をかけざるを得ない本のことを考える」という話題自体がテーマ・ノン・グラータになっている図書館が、現代だと多くなっているような気がしました。
「図書館の自由に関する宣言」という大きな教科書(?)があって、日々の運営に正解を求められるプレッシャーで息苦しくなり、目の前にある問題について一つ一つ丁寧に考えることを嫌がってしまう。思考停止状態の図書館が「この本を提供しますか?」という問いに直面して、周りを見回して権威にや前例に影響を受け、なんとなく「これが正解」と思い込む。…あれ?このいつか見たことのあるような構造、怖い。
「本の提供及び所蔵を制限することについて」、「図書館が推薦する本の選書の妥当性について」
ずいぶん前、知り合いの司書数名で「オメーの理想の図書館」について雑談したことがありました。その中で、あるROCK好きの司書が「図書館は世界の縮図になっていてほしい」ようなことを言っていて、これがずっと私の心に残っていまして。その時は、「現実にあるものについての本は図書館にも蔵書として当然あるべき」と解釈したのですが、ここに及んではちょっと違う面でもハッとさせられるなあと。
頂戴したお手紙から一例をだすのは恐縮なのですが、「リブリ・ノン・グラータの設定がペルソナ・ノン・グラータにつながる恐れがあるのではないか」という部分。マクロに見れば、現実に間違いなくある「差別」という行為を、図書館でどう扱うか――というのに似ているような気がしました。大林さんが断りを入れていた、「現場では」「現実的には」という言葉が、図書館の自由に関する宣言のなかの提供の自由制限の項目にスポットを当ててきます。「社会が良い状態を保つために、社会的理性によって制限をかける」のような面は確かにあるのでしょう。この社会的理性たるものが、現実を現実らしくしているような気がしました。理想を達成できない理由といいますか、「そんなに簡単じゃねえんだよ」の原因の一部分といいますか。そのあたりの不合理まで飲み込んで考える「世界の縮図になっている図書館」というものには、以前の解釈とはまた違った魅力を感じるところです。
この視点で「そんな本をなんで図書館が薦めるんだ問題」を見れば、この問題もある種、この類の制限なのかなと思ったりもします。自由宣言では「提供の自由は、次の場合にかぎって制限されることがある。これらの制限は、極力限定して適用し、時期を経て再検討されるべきものである」と書かれており、ということは、「この本を薦めるべきではない」という制限も、極力限定的に適用し、絶対的なものではなく、時間軸とともに再検討されていかなければならないようなものなのだろうと。
ということで、「現実的にリブリ・ノン・グラータ(所蔵なり推薦なり)にせざるを得ない本はあるかもしれないが、その判断は特定の個人が自信をもって行うようなものではないし、絶対的な力を持たせるようなものでもないのでは」という感じが私の考えになります。なにやら大林さんの手紙の焼き直しみたいになってしまいました。反省。
ところでラテン語、格好いいなと思いました。海外の言語だと、小学生の頃に漫画で漢文の返り点(レ点)が使われているのを見て、「なんだこれは!」と衝撃を受けたことを思い出します。大林さんもペルソナ・ノン・グラータは『ゴルゴ13』で初めて目にしたとのこと。私の場合、体系的な学習につながったわけではありませんでしたが、日常ではあまり出会わない(現代だとそうでもないのですか?)海外の言語に触れる機会として、漫画というものが身近にあることは、いまさら言うまでもないことでしょう。…こ、コミック収集しない問題…。ノン・グラータ案件がここにも。
コミック所蔵の可否については、その図書館独自の収集方針で決められているところが多いと思います。そんな収集方針の更新含め、思考停止にならず、時代の変化とともにいろんなことが再検討され続けていくといいなと思いました。大事にしたいと思ったものにはいつも気づき続けていきたいものです。
ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん。 (高)
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