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タイトル 司書の私書箱

No.31「無ナショナルアイデンティティと決断の手紙」

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 気持ちのいい秋の風が、身に絡まるアレコレを吹き飛ばしてくれます。蜘蛛のサイズ、ひゅーーーん。前回いただいたお手紙、過去最長のお手紙、最高でした。神回でした(メタ)。
 バルトの『表徴の帝国』や、ルース・ベネディクト『菊と刀』のような日本を客観的な目で見た本を読むと、私も縮こまってしまいがちです。分析によって上がったハードルを越えられる気がしない感といいますか。あなた方が気づいた素晴らしさ、もしかしたら私や私の周りの環境には無いかもしれませんごめんなさい感といいますか。どうしても自分の目に見えるところがリアルに感じる気が強いのですね。スポーツなどで日本代表を応援するのも、身近に日本代表になった友人がいたので、思春期にその友人を通して「日本代表」というものを見るようになったからというところが大きいのかなと思いました。
 いずれにしても、自分は「日本とは、日本人とは」を語るということに馴染まないな、「私はこう思う、私はこういう人と会ったことがある、親や師からこう教わった」という認識をベースに他者やら外国やら宇宙人やらを見るほうが性に合っているんだなと感じました。私の日本人度は、大林さんのお手紙の「『これは本当の日本ではない』と言えない日本の私」にまでも届いていないなと。「日本人の無宗教」的な「高橋の無ナショナルアイデンティティ(?)」ともいえるこの状態、あら残念と枝毛を抜きました。

 「大学を蜘蛛に決めてもらった」は響きました。本筋とは関係ないことが何かを決めるきっかけになるのって、ちょっと粋がありますよね。「大きな蜘蛛が嫌い⇒大きな蜘蛛のいない土地(大学)にいこう」のパターンも味がありますし、「いくつかの候補の中からサイコロで決める」パターンも趣深い。私は大学の時、就職候補地を「土地の住所の漢字がしっくりくるかどうか」でピックアップしていました(正直「南相馬」が気に入っていたかといわれると…ナイショです)。毎年書く年賀状の住所が自分の好きな文字ならちょっと幸せを感じられると思いませんか?(笑)
 1から10まですべて自分で決めたんだ!というのも勇ましいと思うのですが、個人的には大事な決断である程、どこかに偶然や「そんなことで?」みたいな些細なことを挟んでおきたいマンです。

 些細な…というと怒られてしまうかもしれませんが、図書館が誰かの大事な決断のラストピースになることもあるかもしれませんよね(もちろん「子育てするなら図書館が充実している地域はマスト」というのも嬉しい話ですが)。例えば、別な土地への移住を考えているときに「ここの図書館、なんかいい感じ」が選択の一押しになるような。例えば、「あの高校、制服はいまいちだけど学校図書館が入りやすかった」と電車の中で中学生の声が聞こえてくるような。例えば、災害で地域外に避難していた人が「休館していた図書館が再開したから戻ってきた」と言ってくれるような。些細なお気に入りにしたいものは、私の場合、ほんのり温かかったり、ちょっとセンスがよかったり、古くてもきちんと手入れがされていたり、そんなものだったりします。「あるのが当たり前だけど、ちゃんと好き」が素敵ですね。
 大林さんの偶然の一品・小さなこだわりのピースがありましたら、今度会った時にでもぜひ見せていただきたいものです。とはいえ、くれぐれもビッグ蜘蛛以外のものでお願いしますね。怖いので。(髙)

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