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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第2回 司書は爪より言葉を研げ

  司書は靴をはいた猫です。理由は前回をお読みいただくとして、司書という種族が裸足の猫と違うのは、言葉を武器、否、商売道具にしているところです。中でも注目するべきは、書き言葉です。なにしろ「書を司る」専門家ですから。でも、慢心は禁物ですよ。ときに言葉は爪よりも他人を傷つけ、回り回って自分自身にも害を及ぼします。上手に使えば招き猫よろしく、福を呼び寄せることもできますけどね。

 たしかにビジュアルは大事です。でも、言葉がヘナチョコだったら、ポスターのイラストやスライドのグラフだって力を発揮できません。無意味、ときには逆効果。図書館業界のトレンドを頭に詰め込む時間があったら、書き言葉を研いだ方がいいですよ。

 ただし、書き言葉を研ぐのには手間暇がかかります。コミュニケーションを目的とするのであれば、まずは自分の書き言葉が他人(特に業界外の人)に伝わるかどうか、チェックするところから始めてはどうでしょう。

 伝わらない文章には残念な特徴があります。たとえば、「て・に・を・は」等の助詞の誤用。主語と述語の不一致。どこまでも続く長文。でも、ご安心あれ。書き終えてから声に出して読めば、たいてい気がつくものです。

挿絵1
※挿絵はクリックで拡大します。

 業界用語の垂れ流しも要注意です。通じないうえに誤用される言葉の代表が、「OPAC(オーパック)」。資料検索用のPCではなく、利用者がオンラインで検索できる目録のことです。「レファレンス」という言葉も無造作に使われがちですが、説明抜きで誰にでも通じるとはいえません。

  

「参考図書が買えないから、自分には無理!」

 そんな叫びが聞こえそうですが、とんでもない。図書館で働く利点を活かすことです。辞書・事典に限らず、役立つ資料はすべて動員しましょう。知的活動に携わる人々にとって図書館は便利なシステムであることを、司書自身が証明できます。使い難ければ改善するのは、司書本来の仕事です。

 文章を書いたら、ときどき自分以外の誰かの目でチェックしてもらうのが吉。図書館長在職中の私の最大の娯楽の一つが、館員の文章の校正でした。他人の文章であっても「通じる文章」に直すのは「お通じ」にも似た快感です。あまり感謝されなかった(らしい)のは、他人の楽しみを奪ったからかも。

 「書き言葉を研ぐ大切さは分かったけど、業界の知識だって更新したい」とおっしゃるあなたに朗報があります。知識は頭に入った分だけ、外に出せばよいのです。もちろん、人間の脳はトコロテンではありません。入力した知識を頭の中でよくかみ砕き、引用以外は自分の言葉に直して出力しましょう。

 出力するとき、秘密の日記に書くのも悪くはないですけど、自分以外の誰かに向けて発信することをお勧めします。SNSでも交換日記でも構いません。相手が知りたいことを予想しながら書いてください。「私も読みたくなった」という反応があれば、それこそ司書の本懐、猫の招福ではありませんか。お試しあれ。

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