昨秋、出張先の長野市から1時間ほど電車に揺られ、小布施町に辿り着きました。栗好きの私が、ご当地名物の栗菓子や栗飯を期待していなかったといえば嘘になります。でも、この小さな旅の主な目的は、12年ぶりに小布施町立図書館「まちとしょテラソ」を訪ねることだったのです。
4代目の館長さんが、図書館経営にNVC(Non-Violent Communication)を取り入れていると知ったのが一昨年の秋のこと。第25回のコラムで触れましたが、私はこの数年、NVCを学んでいます。興味を駆り立てられ、すぐにコンタクトを取ったのですが、諸事情あって1年後の訪問となったのでした。
訪問の印象を一言で表すなら「森のような図書館」。
「木をふんだんに使った建築」といった次元の話ではありません。建物の壁や組織の境目を超え、風土やコミュニティと有機的につながって情報や資源をやり取りする、開かれた「生態系」が姿を現し始めていることに心動かされました。そして、「鎮守の森」という言葉を思い浮かべたのです。
生態学者の宮脇昭は「鎮守の森」についてこう書いています。
<生物的な多様性とは、土地の自然環境に応じた、あるいは一部人間活動も含めたトータルシステムとして、ダイナミックに持続的に維持される多様性を意味するべきである。その多様性が鎮守の森にはある。(中略)鎮守の森こそ、それぞれの地域の多様性のシンボルであり、その最も具体的な姿である。>宮脇昭『鎮守の森 増補版』(中公文庫)
公共図書館も、多様な資料(本・CD・DVD等)、人(利用者・職員・ボランティア等)、モノ(施設・設備・家具等)、情報などの要素で構成されているシステムです。すべての要素は、鎮守の森と同様、外部環境と呼応しつつ「ダイナミックに」変化しながら「持続的に維持」されています。図書館も鎮守の森の一種なのだ、と言いたくなります。
「まちとしょテラソ」を「森のような図書館」と感じたのは、12年前にはまだうっすらとしか感じられなかった<ダイナミックに持続的に維持される多様性>が、まさに森のように息づき、町全体とのつながりをいろんなレベルで広げ、深めていたからでした。
たとえば、図書館の周囲の敷地です。図書館の建物が、町民を中心とした利用者と一緒につくるエディブルガーデンに囲まれているのです。図書館予算で購入した黒土以外、資材はすべて持ち寄りとのこと。館長さんは「この庭は、みんなのコモンズ(共有地)です。」とおっしゃっていました。作物の種を貸し出す「種の図書館」まであるのには驚きました。借りた種を植え、新たな種が採れれば、その一部を図書館に「返却」するという仕組みです。
こうした新しい取り組みについて、職員やまちの人達を巻き込んでいくのは簡単ではないはずです。きっとNVCが活きているのでしょう。
館長さんとの話に夢中になり、ご当地の栗のことはすっかり忘れていました。しかし、食欲以外のニーズが満たされ、この、森のような図書館を応援したい気持ちがムクムクと沸き起こった一日でした。
公園等の緑地と隣り合う図書館はたくさんありますが、そのつなげ方にはまだまだ工夫の余地があると思います。だからこそ、森のような図書館づくりを具体的にイメージし、ちょっとだけ実験してみませんか。ぜひお試しあれ。
(イラストは、想像上の「森のような図書館」です。)
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