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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第51回 対話型レファレンス・サービスは生成AIと共に

 昨年9月の当コラムでは、司書と来館者が協力して求める資料を見つけだすレファレンス・サービスの本質を「対話」に見立てました。題して、「“対話型調べものサポート”で生成AIを超えよう」。あれから1年弱。「対話型レファレンス・サービス」は、対話の当事者とはなり得ないと書いた生成AI(以下、“AI”)を仲間に加える形で、広がり始めています。

 今年2月、ある市立図書館で、司書研修の講師を務めました。AIを使ってイベントを企画しようというものです。たとえば「夏休みに子どもがワクワクする展示を考えて」とGPT-4oに促すと、数秒で企画のたたき台が提示されます。受講者はその場でAIにゲストや予算について質問を重ね、企画をブラッシュアップ。受講していた司書の一人が「司書とAIは、発想の共犯者だよね」と感想を述べた時、会場には納得の笑みが広がりました。その手応えは、終了後のアンケートにも表れました。「私たちが考えつかない提案をAIが繰り出す様子にワクワクした」、「AIに問いかけ、提示されたアイデアの裏を取るのは司書の仕事」、「ぜひAIの導入を館長に説得して」といった感想が並んだのです。

 2か月後、ある県の県内図書館長向け研修の講師に招かれました。テーマは“生成AIと共に生きる時代の「人づくり・組織づくり」”です。慢性的な人手不足が予想される状況では、職場の「心理的安全性」を高めると同時に、AIを活用することがブレークスルーとなるのでは、といった点が議論となりました。先のイベント企画の研修で、司書たちがAIと共に調べ、考える状況を楽しんでいた様子を伝えたところ、次々と「そんな研修をぜひ受けたいし、受けさせたい」という声が上がりました。結局、あらためて県立図書館でAIの活用に的を絞った研修を実施することになったのです。

 私自身と生成AIの付き合いから、AIは「正解」を即答する便利屋ではなく、問いを掘り下げる“もう一人の対話相手”になり得ることに気づきました。先の二つの研修企画も、私とAIとの共同作業の成果です。もちろん、この文章も。司書が利用者の言葉にならないモヤモヤを汲み取り、AIが関連語や視点を束ねて提示する。利用者はその束を手がかりに再び語り直す――三者の往復が進むほど、問いは立体的になり、答えは利用者自身の中に芽生えていくことでしょう。

 もちろん落とし穴もあります。AI の出力には相変わらず誤情報が混在するし、プライバシー、著作権やモデルの利用規約への配慮も欠かせません。そのため司書は「対話のファシリテーター」であると同時に「ファクトとフィクションをより分ける編集者」となることが必要です。たとえば、AIの提示した情報源を利用者と一緒に検証し、必要に応じて「その根拠は何ですか」とAIに突っ込む――AIは人の問いかけの鋭さに比例して賢くなる学習機械なのです。認知バイアスをもつ人間ともっともらしいウソ(ハルシネーション)をつくAIが、互いの長所を活かして欠点を補い合う関係を築きたいものです。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 当コラムは「対話型調べ物サポート」新バージョンとして、司書・利用者・AIの三者協働をお勧めします。実装にあたって必要なのは、問いを楽しむ好奇心と、問いの意図と答えのずれを笑い合える心理的安全性です。自分自身の小さな疑問を素材に、AIと共に調べる練習を始めてみませんか。レファレンスデスクで「AIだったらどう答える?」と思ったら、すぐにアプリを立ち上げて問いかけてみるのです。ぜひ、お試しあれ。

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