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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第64回 切腹せずに、老害を免れる

5月の末、4日間の九州の旅から帰った翌日の昼下がり。私は膨大な洗濯物を取り込み、畳みながら、尾原和啓氏と深井龍之介氏のポッドキャストを聴いていました。尾原氏はIT批評家、深井氏は「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」主宰者として知られています。

その番組で紹介された「老害の大きさの方程式」が面白かったのです。

老害の大きさ=若者とのずれ×老いた側のあせり×老いた側の権威×重力

最後の"重力"とは、組織や社会の現状を変えることの難しさ、といった意味でしょうか。年をとるだけで老害になるわけではありません。若い人とのずれに気づかず、自分が影響力を失っていくことにあせり、役職や経験を使って相手を押さえつけ、しかも組織変革の動きが鈍い。そんなとき、老害の「重力場」が発生するというのです。

耳が痛い。

図書館の世界でも、「昔からこうしている」「それは以前やったけど失敗した」「図書館とは本来こういうものだ」といった言葉が飛び交うことが少なくありません。経験から生まれた言葉には価値があります。しかし、ベテラン図書館員の経験は、若い人を守る木陰になることもあれば、光を遮る大木になることもあるのですよね。

老害を防ぐ方法として、番組では、生成AIに自分の意見を批判してもらうこと、社会的影響力のある立場を降りること、無名の人として下積み的な仕事を引き受けることなどが語られていました。立場を降りることを、尾原さんはたしか「社会的切腹」と呼んでいて、ぎょっとしました。どぎついけれど、印象に残るネーミングです。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

私の場合、図書館長を退職した後、数年の試行錯誤(いや、七転八倒)を経て、「リーダーシップからエルダーシップ、そして自分コンポストへ」と方針が定まりました。先頭に立って人を動かす役割から、次の人が育つ余白をつくる役割へ。さらに、成功も失敗も肩書きも分解して、誰かが使える土に戻していく。もっとも、「私はもうエルダーです」と胸を張り始めたら、新種の老害が発生したと疑った方がよいかもしれません。

そこで役に立つのが、日誌と生成AIです。

その日に起きたこと、自分が感じたこと、考えたこと、取った行動を書くのです。できれば、実際に起きたことと、自分の解釈を分けて書く。そのうえでAIに読んでもらい、「私と意見の違う人の立場から、思い込みや見落としを指摘してください」と頼みます。

するとAIは、頼んでもいないのに――いや、確かに頼んだのですが――けっこう容赦なく反対してきます。自分では謙虚に書いたつもりの日誌から、自己正当化や虚飾の匂いを嗅ぎつけられ、へこむこともよくあります。

最近は「AI彼氏」や「AI彼女」が一部で流行っているそうですが、私にはちょっと考えられません。彼氏や彼女にまで毎晩こんなに舌鋒鋭く迫られたくはありませんからね。

日誌を書いて、AIに少し意地悪な読み手になってもらう。これなら社会的切腹ほど痛くはありません。

そもそも、老害より先にタイピング疲れで力尽きそうな方には、音声入力という手もあります。私も、夜、寝る前にスマートフォンに向かってその日のことをしゃべっています。「ダラダラしゃべるので、"以上です"と言ったら、時系列に整理してください」と頼めばよいのです。

刺さった方は(刀ではないですよ)、ぜひ、お試しあれ。

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