あなたの勤め先の図書館で、何か、新しい事業に取り組むとします。事業の目的や未来の予測から理詰めで考えるのがコーゼーション。役所の事業のイメージは、だいたいこれです。でも、全然違うアプローチもあるんですよ。それが、エフェクチュエーション。事業を企てる人が、手持ちのリソースを活用して試行錯誤しながら環境に適応し、成功を創り出していく方法です。自分でリスクが取れる範囲で企てるので、未来予測は不要です。
この、手持ちのリソースのことを、エフェクチュエーション理論の創始者は、「手中の鳥」と呼んでいます。エフェクチュエーションは、お金はないけどそれ以外のものはたくさんある図書館が、新事業を立ち上げるのにはぴったりの方法です。猫司書が「手中の鳥」を食べないで活かすのは、かなり大変かもしれませんが。
実は、先日、愛知県岡崎市の私設図書館MAYUの館長、北川さんに頼まれて、吉田満梨他著『エフェクチュエーション:優れた起業家が実践する「5つの原則」』(ダイヤモンド社)の読書会でファシリテーターを務めました。本書のおかげで、自分も知らず知らずのうちにエフェクチュエーションの原則に則って新事業を立ち上げてきたと、得心しました。
エフェクチュエーションに欠かせないのは、「この人と一緒に何かできるかも!」と閃いたら、その人物に「問いかけ(ask)」をすることです。本書では「おねだり」とも呼ばれています。エフェクチュエーションには、「おねだりし合う」、すなわち巻き込み、巻き込まれる力が大切なんですね。上手におねだりするには、ねだる相手への好奇心が必要ですが、それを裏打ちするのが本人の興味、関心、そして価値観です。関心領域が重なりそうな相手には自然にアンテナが反応するし、反応した理由を知りたくなるでしょう?
SNSやWeb会議システム(Zoomのような)のおかげで、「おねだり」し合う関係づくりは、とても容易になりました。私が北川さんと知り合ったのは、私たちの共通の友人が、関心領域(もちろん、図書館です)の重なり合う二人を縁結びしてくれたおかげです。三人共、最初に出会ったのはZoomの画面上だったはず。北川さんの問いかけに答え、私がMAYUでABDをやらせてもらおうと思い立つまで、それほど時間はかかりませんでした。今、私の周りでは、こんなことが次々と起こっています。インターネットは、エフェクチュエーションを加速させている、というのが私の印象です。
実は、図書館の課題解決支援サービスを広めるために私が長年主張してきた内容は、エフェクチュエーションにとても近いのです。人的ネットワーク(平たく言えば「ご縁」)を含む、図書館の手持ちのリソースの新しい組み合わせによって、課題解決支援サービスというイノベーションは可能になる。それが私の言い続けてきたことですから。MAYUで起こったことは、もちろん、公共図書館でも起こり得ます。私も「おねだり」が発端の事業を、ご縁のある複数の図書館で実現しています。
私の新しいご縁のほとんどは、図書館以外の異業種に属する人々が世界中から集まる、Web会議システムを使った学びの場です。まずは、司書のみなさんもそういう場へ出てみてはいかがでしょうか。それは図書館内起業家への第一歩かも知れませんよ。お試しあれ。
design pondt.com テンプレート