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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第49回 リミッターを外そう!

「私は効能のある壺を売っているわけではありません。」

自分より20歳以上若いけど私が勝手に師匠と思っている人が、こう語るのを聴いたのはつい昨晩のこと。私は「効能のある壺」の代わりに何を受け取ったのだろう、と振り返ってみました。

思い至ったのは、こういうことです。

「私は、成長の限界をはずしてもらった。」

その人と私が出会ったのは、3年前、63歳のときでした。自分はもういい年だから、成長しないし、する必要もない。そんな思い込みがあったのだけど、この出会いによって、それが気持ちいいくらいコッパミジンに粉砕されたのでした。

限界を設定するリミッターは人により違う形を取りますが、見方によっては、それさえあれば安心して生きていける、人生の安全装置です。そういうものが生きていくうえで大切なのは確かでしょう。でも、ときどき、安全装置を外して冒険したくなる私が、ムクムクと頭をもたげるのです。

図書館員であれば、「館内で年齢制限なしのお泊り会をやりたい」とか「官能小説の朗読会をやりたい」とか「認知症の当事者や家族が集まる場をつくりたい」とか,,,。

ハードル高いって思いますよね。どうしてなんでしょう。すべて、国内でどこかの図書館が実施しているのに。

なんで冒険しなくちゃならないの、と思ったあなた。冒険しなくちゃならない理由なんてありません。やらされ感で冒険する(させられる)のは、単なるハラスメントです。でもね、ときどき冒険しないと成長もできないんですよ。そして、冒険しようか、やめようかと迷う自分の後押しをしてくれるのが、読書だったりするわけです。

書きながら気づいたんですが、人一倍怖がりの私が、前回書いたような館内起業的な試みを続けてきたのは、小中学生の頃、冒険家といわれる人たちの伝記を読み漁った影響かもしれません。

今、三宅香帆の『人生を狂わす名著50』(ライツ社)というブックガイドを読んでいるのですが、このタイトルは秀逸と思いませんか?

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

私の人生も、多くの名著によって予想外の方向に何度も「狂った」。狂わない人生より、狂う人生の方がよいとはいいませんが、狂うことがすべて悪いとも言い切れないと思うのです。むしろ、人には狂うべきときがある。あえて安全な道を選ばず、冒険に走るなんて「狂気の沙汰」の極みです。それにもかかわらず、まんまと破滅を免れたとき、人は「一皮むけた」といえるのかも。

とはいえ、人はほんのささいなことにも傷つく存在であり、その傷はいろんな方法で手当てされなきゃなりません。図書館は、私だけの「人生を狂わす名著」と「人生を癒す名著」に出会える場であってほしい。心の傷つきとそれを癒すケアについては、最近の一番の関心事なので別の回に書きましょう。

司書のみなさん、まずは同僚、そしてあなた自身の「人生を狂わせた一冊」を、ブックトラックに載せて展示してみませんか?きっと、来館者の中にも、「私の人生を狂わせた一冊も紹介して!」という仲間が現れるはず。もちろん、その本も載せましょう。人生を狂わせ、リミッターを外す図書館への大いなる一歩です。お試しあれ。

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