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タイトル ライブラリアン・ラプソディ

56 トキメキたい!から旅をする ―旅の節目に

 いくつになっても「トキメキ」は妙薬みたいなもので、‘ここではないどこかへ’の旅は、出会いの偶然性と必然性が織りなすドラマも相まってちょっぴり刺激的。他者と向き合うことは自分と向き合うことでもあり、‘その時出会う人が今の自分を映している’のよね。良くも悪くも「自分との遭遇」ってところかしら。

 2006年キューバにて、アントニオ・ゴンザレスとの出会い。評判のウサギ肉の料理を食べに行った帰り道、拾ったタクシーの運転手が彼だった。日本語で話す私と友人にきれいな日本語で「日本人ですか?」と。ハバナ大学の日本語学科に通っていたというアントニオ、日本マニアでもあり、家にはどうやって手に入れたのか甲冑や兜もあるとのこと。サルサを踊りに行ったり、流行りのバーに連れて行ってくれたり、キューバ=(イコール)アントニオとなったのである。帰国後も手紙のやり取りが続き、「また会いたいですね」とアントニオ。きっともう会うことはないだろうと心のどこかで思いながらも、また会える奇跡に思いを馳せる、日々是好日。

 2018年12月の台湾、人生初の無人ホテルに四苦八苦、というか入ることすらできなかった……。旅に暗雲が立ち込めたかと思った瞬間、トラックから舞い降りたおじさんヒーローJIMさんの「Are
you OK?」は天からの贈り物。その後仲良くなったJIMさんとは、美味しいスイーツのお店を何軒も一緒にハシゴして、可愛い雑貨のお店や古い町並みを案内してくれ、夕飯はとっておきの海鮮居酒屋に連れて行ってくれたっけ。私たちの窮地を救ってくれただけでなく、旅を幸運に導いてくれた素敵なジェントルマン。
 台湾漫遊記その2。台北から電車とバスを乗り継いで2時間ほど、激動の台湾を描いた映画「悲情城市」の舞台ともなった場所、九份。赤い提灯の柔らかな明かりに照らされたレトロな建物や街並みはなんと美しいことか!標高500mに位置する九份からの眺めは、日常のケガレを洗い流すように心に浸透する。と、知的な雰囲気をまとったリチャードおじさんはハンコ屋の店主。「ハンコは人生を左右するんだよ」と、陰と陽の組合せで吉凶を占う中国古来の八卦も熟知しているとのこと。「これがいいよ!」と選んでくれたキレイな茶色のメノウは、‘Victory’のVのような模様が浮かぶ素敵なもの。おじさんが特許を持っているという幾何学模様のような不思議な文字のハンコは、今では私の愛用品。職場の誰のハンコよりも立派なの!「仙台から来た」と言った私たちに「花は咲く」を日本語で歌ってくれたリチャードおじさん。その太く優しい声はおまじないのようで、台湾が特別な場所になった瞬間だった。旅はやっぱり人なのね。

 金沢への旅では、観光地で何度も遭遇した女性と意気投合、彼女の夫さんのバイト先だったというお寿司屋さんへついて行くことに。お寿司屋さんの大将は、アレもコレも日本海で捕れた新鮮なネタをたくさん握ってくれて、お腹がはち切れそう!その時撮った写真には大将とその弟子?とほろ酔いの私。また絶対来るぞ!と誓うも、場所の記憶があいまいで・・・。旅って、一期一会よね。
 こういう旅の思い出は、いつまでたっても色褪せない。思い出すたびに心が温かくなって、自分の‘現在地’を確認する道しるべにもなるんじゃないかしら。

 旅は‘新しい経験を得る’という意味で投資にもなると‘President Online’にあったよな。投資、投資とうるさい昨今こういう投資なら得意かも。私にとって‘書く’ことも旅のようなもの。どこへ向かうのか自分でも結末が見えないという、自分への淡い期待⁉を込めた旅。これもトキメキの一つよね。素敵な「自分との遭遇」を求めて、色褪せない思い出をたくさん編んでいこうと思うのである。

 2020年8月から始まったコラム「ライブラリアン・ラプソディ」に長い間お付き合いいただき誠にありがとうございました。旅の伴走者として、挿絵を担当してくれた斉藤由理香さんにも感謝いたします。また旅のどこかでみなさんにお会いできることを楽しみに、ライブラリアン道を歩んで参りたいと思います。

挿絵1
※挿絵はクリックで拡大します。
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