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タイトル ライブラリアン・ラプソディ

53 やっぱり辞書が好き♡

 レファレンス資料の鮮度が、その図書館を映す鏡よねと常々思っている。新版が出ているのに旧版が書架に並んでいたりしたら、「ちょっとライブラリアンのアンテナ錆びてない!」とついつい心の声が漏れてしまう。レファレンス資料は、目録や索引、年鑑など幅広い資料が含まれうるが、私は王道である辞書・辞典類に興味が尽きない。三浦しをん原作の『舟を編む』をドラマ化したNHKの「舟を編む ~私、辞書つくります~」は、辞書編集部に異動となった新人社員が辞書づくりに目覚めていくストーリー。作り手の壮大な世界観と言葉を追う執念に緻密な作業の積み重ね、憧れるなぁ♡

 辞書にまつわる言葉を読み解く辞典『辞典語辞典』(誠文堂新光社, 2021)には、681項目が収められている。『広辞苑』の編者である「新村 出(しんむら いずる)」や、『明解国語辞典』をともに編んだ「ケンボー先生と山田先生」(「見坊豪紀」(けんぼう ひでとし)や「山田忠雄」(やまだ ただお)についても記述あり!)の項目もあり、辞書界のスターの登場にワクワクがとまらない。大槻文彦(おおつき ふみひこ)が手がけ1889~1891年にかけて刊行された『言海』の項目、この辞書は日本初の近代的な国語辞典であり、「現代刊行される種々の国語辞典の形式を確立した偉大な辞書」と記されている。これには文彦の「ウェブスター英語大辞典」の研究が活かされているとのこと、編纂期間16年、出版までも紆余曲折あり、結局文彦の自費出版という形で4巻が産み落とされたのである。歴史的大事業である塙保己一編の『群書類従』(江戸後期に編集された古文献の叢書)も自費出版だったという事実、国力を映す鏡ともいえる事業だと思うのだが、鏡のくもりが酷すぎやしませんか?

挿絵1
※挿絵はクリックで拡大します。

 さて、前述の『辞典語辞典』を刊行した誠文堂新光社は様々な辞書を出版、イラスト付きで‘面白くてためになる’個性豊かなラインナップ。『すし語辞典』や『神社語辞典』に『焼肉語辞典』、はたまた『韓ドラ語辞典』に『ゴシック&ロリータ語辞典』、『手塚治虫語辞典』などなど。誠文堂新光社は創業100年を超える老舗出版社、そのホームページには、「あなたの『好き』を、もっと深いところまで。」とあり、その心意気が伝わってくる。
 『文房具語辞典』の「京極夏彦(きょうごくなつひこ)」の項、著作のページ数が多いため、ブックカバーなどをつくる際の限界目安となっていて、「京極でも大丈夫です」というのがブックカバーの対応力を示すセールスポイントとなるとのこと。なるほどなるほど、納得!
 『気になる仏教語辞典』にはなぜか「オロナインH軟膏」が登場。殺菌成分配合の軟膏であることの説明に続き、「得度前に今まで有髪だった人がいきなり頭を剃ると出来物などを切ってしまい流血する場合があり、そんな時に塗ると良い」と。ほほぉ~、体験した人にしかわからない着目点だわ。
 『韓ドラ語辞典』を開くと、待ってましたぁ!「記憶喪失」の項目あり。「韓ドラあるあるの筆頭」との記述、これがないと韓ドラじゃないってぐらい定番ですもんね。
 私にはあまり馴染みのない『ゴシック&ロリータ語辞典』には、現在のロリータ服やゴス服につながる歴史の解説があり、ゴシック・ロリータが誕生したのは1990年代、その特徴はミニハットやヘッドドレス、姫カット、ギャザーフリル・スカートなど、イラストがあるからワードがわからなくても初心者でも大丈夫。5月22日は「世界ゴスの日(World Goth Day)」だって!2010年に英国からスタートらしい。縁遠かったゴスロリの世界もちょっと知識を得たことで俄然興味が湧いてくる。

 辞書は時代を映す鏡。でも言葉は常に変化し、辞書が作られた時点ですでにその言葉は古くなっていく。その鏡をブラッシュアップしつづける作り手の情熱を想像するとき、また鏡の中を覗いてみたいという好奇心が辞書をさらに面白くする。だから、やっぱり辞書が好き♡

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