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タイトル 本の風

第49回 「わが家の味」

 年とともに、おせっかいに拍車がかかっていることは、自覚している。先日、高校時代からの友人と食事をした。長いつきあいなので、たくさん思い出があるが、よく覚えているのが、お母さんの手作りというおいしいおはぎを食べさせてもらったことと、掘りごたつある豪邸だったので、8トラックのカラオケ機で演歌をたくさん歌って、点数を競って遊んだりしたことだ。
 最近はお互いの父親が一人暮らしをしているので、「お父さん元気にしてる?」が合言葉のようになっているのだが、どちらもドライな性格なので、介護の心配が出るまでは、「便りがないのが元気な証拠」くらいの距離感をキープしている。
 先に旅立った私たちの母親の話になったとき、昭和の母たちはご飯を作るとき、料理本や、新聞のレシピを切り抜きしていたよね、と懐かしがった。彼女のお母さんも定番の料理本があり、そこにたくさんメモも挟んでいたそうだがお父さんが処分してしまったことが、悔やまれるとのこと。そこまで聞いてしまうと、居ても立ってもいられない。おせっかい司書のスイッチが入ってしまった。
 それまで片手に持っていたピザを急いで食べ、スマホに持ち替える。「ちょっと、なんか題名とか覚えてないの、ヒントヒント」と聞くと、「365日って書いてた気がする」とのこと。それだけわかれば十分だ。検索してみると「昭和 料理 365日」で、それらしき本が、いくつか出てきた。オークションのサイトに表紙がばっちり映っていたので、「これじゃないの?」と画面を見せると、お姉さんにも連絡を取ってもらい、間違いないことが判明した。
 ちなみに、正解は『365日のおかず百科』(主婦の友社)だった。この本は見開き1ページに日付順に主菜と副菜が載っていて、382頁もある。友人にはこれまでさんざん世話になっているので、すぐにオークションの即決価格で競り落とし、プレゼントすることにした。久しぶりに、こちらも興奮して本を探したが、「これこれ、この本だ」と嬉しそうな顔を見ることができ、大満足だ。

 たまには料理本を見て、ごはんを作ろうと『小林カツ代 料理の辞典 おいしい家庭料理の作り方2448レシピ』(小林カツ代/著 朝日出版社)を引っ張り出してきた。その名のとおり辞典で、968頁もある。水濡れでページはよれよれだし、しょうゆのシミまでついているが、これが自分にとって最強の料理本である。開いてみると、母の手書きのメモが挟まっていた。それは手羽元を酢で煮込んだもののレシピだった。カツ代さんにもお世話になったが、これだけは母の味つけが知りたくて、書いてもらったものである。
 最近、すっかりやせてしまった父に、作って食べさせてあげなさい、と母に言われた気がした。(真)

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