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タイトル 本の風

第50回 「歯みがき歯みがき ゴシゴシ シュッシュ」

 季節の移り変わりで体調を崩しやすくなり、これが加齢によるものなのだろうと年の近い友人たちと軽口をたたいていた。ほかにも乾燥して肌がカサカサになるとか、寒暖差で頭痛が酷いとか、風邪が長引いてなかなか治らないとか。これがあと10年もしたら血圧が高いとか、コレステロール値が高いとか、もっと深刻な病気とか、諸々の医者通いが始まるのだろうか。気をつけようねと話しながら、美味しいものをたっぷり食べて飲んで満腹満腹。健康のための腹八分とはなんとも難しい……

 今の私の医者通いは歯科である。以前は歯科に行くのは用があるとき、つまり歯が痛くてどうしようもなくなったときに駆け込むものだった。それが、市からの「歯周疾患検診のお知らせ(無料)」のハガキが届いたことで、痛いところはないけど検診に行ってみるのも良いかもと、申し込んでみたのがはじまり。
 歯周病の検査として歯周ポケットを調べ、歯垢や歯石を除去し、クリーニングして最後にフッ素を塗る。口を大きく開けているのは疲れるし、工具のような機器でグウィィィィーンとクリーニングされるのは正直辛い。けれども、検診の初めに、歯周病が如何に恐ろしいものなのかを説明され、正しい歯みがきで予防することの大切さを聞いたことで、俄然意識が変わった。歯ブラシと歯磨き粉は2種類ずつ、歯間ブラシも2サイズ、フロスにマウスウォッシュも揃えてセルフケアに勤しんでいる。加えて2か月に一度の通院によるクリーニング。毎回、良く磨けていますねと褒められて気をよくしているのである。

 医者に行けば大なり小なり待ち時間があるのは仕方ない。予約はしていても、ぴったりに診てもらえるわけではないし、会計までにも時間がかかる。待ち時間に読むための本はエッセイが気に入っている。短編だとなお良い。
 先月、歯科での待ち時間にジェーン・スーさんのエッセイを読んでいたら、歯医者が嫌いだという話があった。『美ST』という雑誌の連載をまとめた『きれいになりたい気がしてきた』(光文社)の中のひとつ。痛みにとても弱く、治療はもはや恐怖しかないと書かれている。わかるわかる。とはいえ治療しなくては虫歯が増えていくばかり、「歯は命」なのですよ、と。アラフィフの著者が人としての魅力を磨くことで、楽しく綺麗を実践している44本のお話。

 絵本には「歯」や「歯みがき」をテーマにした作品が多くある。子どもにとっても歯みがきは身近で大切ことだからかな。
 『ゆかしたのワニ』(ねじめ正一/文・コマツシンヤ/絵・福音館書店)ぼくの家の床下にはワニが住んでいる。毎晩、床下へ行き、ワニの歯みがきをするのがぼくの仕事。ワニの口の中へ入って背丈ほどもある大きな歯ブラシでゴシゴシ。ワニの歯にはトリの食べかすも挟まっているし、虫歯に見えた黒いところは魚の皮が張り付いていた。上の歯も下の歯も、奥の歯も歯の裏側もゴシゴシ。
 ぼくがワニの歯みがきに使う七つ道具は棒っきれ、楊枝、歯ブラシ、虫眼鏡、布団ばさみ、胡椒、マスク。さて、どんなふうに使ったのかな。ワニが最後にうがいをして歯みがきはおしまい。ぼくも家に帰って歯みがきをして寝る準備。
 ワニの歯みがきに奮闘する様子はもちろん、ワニの住処となっている床下が細かく描かれていてとても楽しい1冊。
 1年生に読み聞かせをしたときに「今日ね、朝ね、歯みがきしてこなかった。ワニさんはすごいね。」って言った男の子がいたな。歯みがきされるほうに想いを寄せるって素晴らしい。(石)

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