「雑誌の真の使命は、その時代の精神を証言することである」とは、ドイツの思想家ヴォルター・ベンジャミンの言葉である。時代の精神、つまり雑誌を見ればその時代のトレンドが、そして時代そのものが見えてくるとういこと。それは総合雑誌やファッション誌、生活実用誌などジャンルを問わず、さらにその内容や形態、表紙に至るすべてが時代とリンクしている。
日本における雑誌の始まりは、江戸から明治にかけての慶応3(1867)年に刊行された柳川春三による『西洋雑誌』とされている。雑誌の巻末には「この雑誌出版の意は西洋諸国で月々出版されている‘マガセイン’の如く」と宣言されている。その内容は時代を反映し、欧米の文化を紹介するもので、語学に関する本や西洋式数学の入門書、オランダ雑誌翻訳などが中心であった。また日本初の女性誌『女学新誌』は、明治17(1884)年に刊行、「女性思想を世に広めるための啓蒙誌であった。明治維新後、西欧文化が急速に流入し、封建的な男尊女卑の思想から脱皮していく過程の新旧思想が混在する中、新たな女性像を示すべく刊行されたのである。女性をどのように教育すべきか?という観点から書かれたこの雑誌の読者は実は男性が多かったらしく、女性の就学率が極めて低かった時代、漢文調で書かれた固い内容の雑誌は女性の元には届かなかった。なんとも皮肉な事実である。
毎日新聞2023年2月1日の夕刊には、雑誌不況の昨今、月刊誌『ハルメク』が50万部を突破したとの快進撃を伝える記事がある。50歳以上の女性向け雑誌『ハルメク』は書店を通さず読者に直送する定期購読月刊誌で、読者も気づいていないニーズや悩みを掘り起こし、誌面でその解決法を提示する。例えばシニア女性が苦手とするスマホ操作、そもそも基本操作の「タップ」に多くの女性がつまずいていることを発見、その理由は指の力加減にあると突き止めた。丁寧なモニター調査から、悩みを言葉にし、解きほぐし、解決策を提案する、「読者に寄り添う」その信頼と安心がシニア女性に支持される理由であろう。
「茶の間の図書館」をコンセプトに創刊された『週刊朝日』が今年の5月末で休刊するとの記事が『出版月報』に掲載された。大正11(1922)年2月創刊、2022年2月に100周年をむかえ、新聞社系老舗週刊誌として大正・昭和・平成・令和と時代とともに歩んできた雑誌である。『週刊朝日』、最初は『旬刊朝日』との誌名で10日ごとに発行、10日間に起こった内外の事件の報道と解説に加え、学芸・家庭娯楽、経済旬報も含まれていた。昭和22年に社会部記者から出版局に配属された扇谷正造は、実際に家計を担っている30代~40代の主婦を雑誌の読者層として、「旧制女学校二年卒+人生経験十年の読解力+子ども二人(幼稚園児と赤ちゃん)+亭主の月収二万八千円」という平均的読者像を設定し、そういった主婦が赤ん坊にミルクを飲ませながら雑誌を読んでいるイメージを想定。そのため記事の文体にも工夫を凝らし、手紙形式の記事で政治の問題もわかりやすく伝えた。また吉川英治による連載小説「新・平家物語」や、フランス文学者辰野隆の連載対談企画などがヒットし、昭和33年ごろには100万部を突破、週刊誌は日本の出版界に市民権を得たのである。日本雑誌協会によると、2022年7~9月の平均印刷部数は7万4000部。部数減が高じての休刊である。時代を反映、牽引してきた雑誌の休刊は実に悲しい。
『週刊朝日』の休刊を伝えた『出版月報』も2023年4月より『季刊出版指標』に改題、月刊から年4回の刊行となるとのこと。雑誌の斜陽、時代を映す鏡の輝きは、時代を如実に映しながら薄れていくのである。その輝きが小さくてもさらに美しく輝くことを信じよう!
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