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タイトル ライブラリアン・ラプソディ

38 「りんごの棚」の物語

 「りんごの棚」は、「特別なニーズのある子どもたちに読書の喜びを」を目的にスウェーデンの公共図書館で始まったものである。通常の印刷が施された本がどの子どもにも適しているわけではなく、さまざまな工夫と技術を使った大活字本やオーディオブック、触れて読む点字図書、音声の入った解説や字幕の入った映像資料、LLブックなど、ニーズによって必要とさる資料は多種多様、それらの資料を利用しやすいようにコーナーを設け‘見える化’したのが「りんごの棚」である。
 1990年代始め、スウェーデンの図書館員の英国研修がそのきっかけとなった。研修で訪れたロンドンの「障害をもつ子どもたちの図書館」(National Library for the Handicapped Child)で目にした、‘個々の子どもの障害ではなく、能力に注目する’という活動が彼らにインスピレーションを与えたのである。1992年にスウェーデン・へルノーサンド図書館が、オリジナルの資料を集めて始まったのが「りんごの棚」。ちなみに、‘りんご’の由来は、ロンドンでみた言語障害のある子どもを支援するために作られたおもちゃのりんごとのことである。

 スウェーデンの図書館で広まった「りんごの棚」は、ノルウェーなど隣国にも波及、現在では世界各国に広まり、日本でも主に公共図書館において「りんごの棚」が設置され、子ども向けだけにとどまらず、昨今は大人向けの棚も作られている。ということで、大学名に‘福祉’を掲げている勤務先である大学図書館でも、「りんごの棚」の設置に向けて計画が練られていくのである。

 「りんごの棚」をつくるには、まずは場所の確保から。人目に着く場所が必須条件、だけどこういった場所は人気エリアである。そうでなくともコーナーを捻出するのは至難の業、かなりの大胆な戦略が必要でしょ!さてさて、どうなることやら。
 メインカウンター付近の一等地に設置が決定。いいぞいいぞ!でもそれには、次の過程を順番にクリアしなければならず・・・、①洋書のレファレンス資料の大幅な引抜き(資料を選んで書庫へ移動する作業)→②別置してある一次資料レファレンス類と二次資料のレファレンス類の一体化→③それらの棚の引伸ばし→④残った洋書レファレンス資料の移動→⑤教科書類などの移動、とこれらを経て、やっと「りんごの棚」に資料を配架することができるのである。りんごちゃん・・・遠いよね。

 かこさとし作の絵本『だるまちゃん・りんごんちゃん』。りんごんむらのりんごんちゃんから「りんごんまつりに来てね」というハガキを受け取っただるまちゃん。だるまちゃんは早速荷物を背負ってにこにこ笑顔でりんごんむらへと出発。電車にのって、汽車にのって、バスにのって、でもバスが動かなくなって、やまみちをあるいて、ひとやまこえてー、ふたやまこえてー、みっつのやまをこえてと、長~い道のりを経てやっとのことでりんごんむらへとたどり着くのである。あれっ、何かデジャヴを感じません?長野県飯田市のりんごがモデルのりんごんちゃん。やはり、りんごにたどり着くのは大変なのね。

 現在、読書が困難な人のために「サピエ図書館」iと「国立国会図書館」によるデータベースが整備されており(著作権法第37条第3項により製作されたものが対象)、相互貸借やデータのダウンロードも可能である。それらのサービスと共に、「りんごの棚」は個々の図書館でできるサービス。古代から豊穣と愛情のシンボルでもあるりんごの可能性に希望を託しつつ、誰もが自由に知的資源にアクセスできるように、「りんごの棚」はその架け橋となるはずである。

挿絵1
※挿絵はクリックで拡大します。

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