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タイトル ライブラリアン・ラプソディ

37 未知のしらべ みたび

 夜空に目を凝らす生活にも陰りが見えてきた。未確認の飛行物体なら何でもいいから現われてくれればいいのに!と嘆きのつぶやき。そうだ!上ばかりに気を取られてはいけないのだ。視点を変えて足元を見てみよう。今度は大地に目を向けるときなのだ。きっと新たな世界が見えてくるはず!

 岐阜県東白川村で4年ぶりに開催された「つちのこフェスタ 2023」には約2000人が集結との記事が、2023年5月28日の「北海道新聞」日曜版に艶々したグロテスクな「ツチノコ」の作りものの写真とともに特集されている。このイベント、「ツチノコ」を探すことを目的として1989年から開催され、開始当初は捕獲賞金100万円と設定されていた。しかし捕獲者がいない場合は、翌年に1万円ずつ上積みするキャリーオーバー方式を採用、現在ではその捕獲賞金は131万円となっているとのこと、「今年こそは!」と、否が応でもツチノコ探索に力が入るという仕掛けである。

 「ツチノコ」といえば日本を代表するUMA(Unidentified Mysterious Animalの略=未確認生物)であるが、江戸時代中期に編纂された百科事典『和漢三才図会』にも「野槌蛇(のづちへび)」の名で登場し、「柄のない槌に似ている。口は大きくて人の脚に噛みつく」と書かれており、その存在は古くから伝えられる。長さ50㎝ほどで、胴がビールビンほど異様に太く、胴からいきなり頭がちょこんと出ているようで、黒褐色の背中には斑点があり、しっぽはネズミぐらいというのが「ツチノコ」のビジュアル覚書である。日本各地で目撃情報があるとされ、バチヘビ、ツチンボ、タテクリカエシなど地域によってその呼び名も様々。目撃した人が口々にいうのは、「ただならぬ異様な雰囲気で恐ろしかった」というもの。「2メートルも飛んで襲ってきた」とか、「いびきをかいて寝ていた」とか、はたまた「ツチノコのことを口外すると祟られる」など、一種迷信的な側面も各地に見られるのである。

挿絵1
※挿絵はクリックで拡大します。

 このツチノコを一躍スターにしたのが、『逃げろツチノコ』の著者である山本素石である。山本氏は渓流釣りの草分け的存在でもあり、渓流釣り仲間とノータリンクラブを結成。自身が京都市上賀茂で遭遇したツチノコを探し求め、各地で聞き込みをし、大規模な捜索も実行するが、それをまとめたものが『逃げろツチノコ』である。ある時、ツチノコの「手配書」が西武百貨店の広報担当者の目に留まり、広報活動と賞金の協力を得ることとなる。「幻の珍蛇 槌の子、生け捕り30万円、遺体10万円、写し絵(写真)6万円」というもの、これでツチノコの認知度が全国に広がるのである。

 この山本素石がモデルとして登場するのが、田辺聖子の『すべってころんで』である。作中の岩井寒岩の一行は、熱心に幻のツチノコを探し求め、見果てぬ夢を追い求める。彼女自身、ツチノコの捕獲にも実際に参加し、山道を歩き、草むらをつついてまわった。「ツチノコは必ずいる」と信じていたツチノコマニア。田辺聖子の興味の範囲は実に広いなぁと思うばかりである。

 ツチノコは「ドラえもん」にも登場、2045年にはペットショップで買える人間に従順な生き物になっている。攻撃的と言われているツチノコが、どれだけの品種改良を繰り返しペットとなるのか、こちらは人間の罪深さがなんとも恐ろしい。また、「ちびまる子ちゃん」では、丸尾君が虫とりあみでツチノコを捕獲!と思いきや、ボロボロの靴下が入っていた・・・というエピソードが描かれている。

 山本氏は『逃げろツチノコ』のあとがきで、「ツチノコがいるか、いないか、分からないが、かつて出遭ったツチノコの仲間が、この国土のどこかいると信じて、それを追い続けてきたが、ツチノコをダシにするピエロになりたくない」、そして「ツチノコよ、捕まるな、逃げろ逃げろ」と言いたいと。なるほど、ツチノコは人間のエゴを察知して姿を見せないのかもしれない。夜空だけではなく、足元にも未知の広大な世界は広がっている。

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