「名建築で昼食を」は、休日においしい珈琲片手に見たくなるTV番組である。晴れの日でも雨の日でも心にフィットする感じがとってもいい。タイトル通り、名建築をめぐりながら、そこで提供される美味しいランチを楽しむドラマ仕立てのストーリー。池田エライザ演じる春野藤と、田口トモロヲ演じる建築模型士の植草千明が、師匠と弟子として「乙女建築」巡りをするというほんわかした、ときにエキセントリックなやり取りが絶妙である。もちろんランチも見逃せない。原作は甲斐みのりの『歩いて、食べる東京のおいしい名建築さんぽ』、東京都庭園美術館やビヤホールライオン銀座七丁目店、旧白洲邸武相荘などが登場する。
第9話の舞台は、国立国会図書館国際子ども図書館で、1906(明治36)年に落成した旧帝国図書館の建物を改修してつくられたもの。国立国会図書館の源流の一つである帝国図書館の建物は、鉄骨レンガ造りのルネサンス様式で、明治期洋風建築の代表作の一つである。計画当初は「東洋一の図書館」を目指し、その実施計画案は、中庭を囲むロの字型で、中央に正面玄関を配置し、左右対称の地上三階、地下一階、建築総坪数は960坪というものであった。しかし、帝国図書館新館開館に際して作製・配布された『帝国図書館概覧』によると、総坪数は215坪と当初の計画の4分の1以下、ロの字型であるはずの建物は、ロの字の右側の一辺のみが完成というものであった。インフレと日露戦争の影響で十分な予算を確保できなかったことが主な要因だが、あまりにも悲しい結末である。その後、1929(昭和4)年に増築されるが、「東洋一の図書館」の理想にはほど遠いものであった。
平成に入り、既存の建物を保存するとともにガラス棟を増設、当時外壁であった木製サッシや化粧煉瓦はそのまま残されている。また2015(平成27)年には、アーチ棟が完成し、明治・昭和・平成の建物が一体化した建物となったのである。天井の漆喰装飾(鏝絵)や寄木細工の床板など当時の内装が保存された帝国図書館の貴賓室は、世界各国の絵本や情報を提供する「世界を知るへや」となり、1階から3階までの吹き抜けの大階段、デザインの入った手すりやシャンデリア、ケヤキの扉は創建当時からのもの、まるでタイムスリップしたかのような美しい空間、100年前とときが共存している場所。だが未完の図書館を「サグラダ・ファミリアみたい」とつぶやく弟子の藤に、師匠は「サグラダ・ファミリアには完成する未来があるが、ここは完成することはない」と言う。なんと胸に突き刺さる言葉か。建物は完成せずとも、‘成長する有機体’であるべき図書館の歩みは止まることはない。
開放的なカフェテリアで二人が選んだのはナポリタン。シンプルで美味しそう。そういえば、ここでランチしたことなかったな。次はナポリタンを食べよう!と心に誓うのであった。
1954年竣工の神奈川県立図書館は、ル・コルビュジエの「モダニズム精神」の洗礼を受けた前川國男による設計であるi。外からの光を制御しながら自然光を室内に取り込むためのホローブリックは、ただの穴のあいたブロックにあらず、計算しつくされた設計で、デザイン性も高い。また、資料を自由に見ることができる開放的な開架式の図書館を考案したのは、この時前川の建築事務所のスタッフだった鬼頭梓である。その後国立国会図書館など30以上の図書館建築に携わり、戦後の図書館のパイオニアとして、図書館のデザインを大きく変えた人物である。
図書館の場合、名建築が利用に適しているかはまた別の話。建築家の理想と図書館員の理想の間には埋めがたい溝があるのも事実。両者の理想が完璧に重なるには?と考えながら、カップに残る珈琲にあらたに珈琲を注ぎつつ、「今日の昼食は何にしよう」と、やっぱり食欲には勝てないよなぁ。
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