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タイトル ライブラリアン・ラプソディ

23 電子化の‘ナカのヒト’

 私の住む仙台市でも、2021年11月から電子図書館サービス「せんだい電子図書館」が開始された。電子図書館であるから、図書館の開館時間や開館日を気にすることなく24時間いつでもどこでも家にいながら本を借りて、すぐに読めるというわけである。早速、私も周囲に遅れまいと小説2冊を予約。しかし、結局2冊ともスルーしてしまい、借りられずに終わった。トホホ・・・。というのも、貸出の順番を知らせる連絡がこないのである(お知らせシステムを導入するには別途かなりの費用が掛かるとのこと!)。毎日毎日予約状況のチェックをしていないと、見逃して自分の順番が過ぎてしまう。図書館のカウンターなら、必ずお知らせしてくれるのに。便利なんだか、便利じゃないんだか、よくわからない状況。電子だからってメリットばかりではないのよね、と痛感。

 資料の電子化は、‘読む’ということだけにとどまらず、‘見る’ことに最大限のメリットをもつものがある。その一つに古い資料、例えば江戸時代やそれよりもっと遡って鎌倉時代などに刷られた資料群である。「国立国会図書館デジタルコレクション」は、「貴重書画像データベース」や「近代デジタルライブラリー」、「児童書デジタルライブラリー」など、インターネットで資料の画像を見ることができるサービスを統合したもので、画像で確認できるので、古い資料の文字の刷られた感じや、紙の変色や虫に食われた状態、また色付きの挿絵などの古色蒼然とした色彩も堪能することができる。まさに机上にいながらタイムスリップ感を味わえる。

挿絵1
※挿絵はクリックで拡大します。

 また図書の所有者を明示するための蔵書印について。蔵書印は特に中国や日本などで普及したもので、古典籍の伝来や来歴を知るため、書誌学上重要な意味をもつことが多い。資料によっては、複数の蔵書印があり、資料の所有者の移り変わりの断片をみることができてとても興味深い。この蔵書印調査にも優れたデータベースがある。国文学研究資料館が提供する「蔵書印データベース」である。このデータベースが提供される以前は、まずは篆刻辞典片手に文字の解読から始まり、文字が解明したところで、『新編蔵書印譜』にあたり、著名な人物の蔵書印かどうかを確認するという長〜い行程が待っていた。しかし、「蔵書印データベース」をひとたび開けば、キーワード検索が可能で、蔵書印の一文字を入れると、その文字を含んだ蔵書印が一覧でき、該当するものがあれば蔵書印の写真、蔵書印主、書名、所蔵先、典拠資料など一瞬でわかるのである!思わず「超、便利〜♡」と、心の声がもれるのである。

 「くずし字解読 AI駆使」という見出しが踊ったのは2020年6月6日の読売新聞の夕刊。「一瞬でくずし字が読めるのぉぉぉ〜」と驚きとともに感激の嵐である。人文学オープンデータ共同利用センターが開発したくずし字解読用のAIは、国文学研究資料館が江戸時代の版木など100万字を超える膨大なくずし字を登録したデジタル版を活用してつくられた。「古文書の画像を取り込むと、くずし字の上に赤字で現代の文字が表示され、1ページの変換に要する時間はわずか1秒。そして江戸時代の文献では約90%の精度で解読が可能」という。恐るべし、AIの技!

 一言で電子化といっても実に様々。そして、どんな場面においても、画像を取り込む人がいて、データを整理する人がいて、様々な専門知識を持った‘人’の絶え間ない努力が電子化を進化させてきたということに変わりはない。電子化の裏の見えない人間、‘ナカのヒト’に感服するばかりである。そして、ナカのヒトの電子化への情熱を思うとき、無機質な世界にも体温を感じずにはいられない、否、体温を感じたい昨今なのである。

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