ジャケ買いの経験あります? 最近ではご当地もののジャケ買いや珍味のジャケ買いとついつい外見に魅せられることが多いのだが、私の統計上、不思議と失敗した経験は少ないように思う。ジャケットの発するにおいから自分が求めるものを嗅ぎ分ける嗅覚がカギとなるが、中身の魅力を最大限に表現するには、ジャケットの世界観はきわめて重要だということ。『人は見た目が9割』、外見は大事ってことか。
さて、定期的に刊行される専門雑誌の受入れと登録作業、配架が私のルーティンワークの一つである。ある心理系の洋雑誌はカラー写真を多用しているため、うっかり持つと手首が折れる! と思うほどズッシリした重量感がある。反対に、薄くてペラペラの紙質のため、ちょっとでも湿気があると面だしの書架の上でお辞儀をするように力なく首を垂れている雑誌もある。どちらも気を付けないと私の身体に、もしくは雑誌の本体に支障をきたすことになる。これも雑誌の形態上のオリジナリティ、だが雑誌のジャケットつまり表紙もオリジナリティ溢れる世界観を見せてくれる。
あるときは、オレンジの体に白のシマシマが際立つハマクマノミ、あるときはギンガメアジの群れと、毎回様々な海洋生物の写真が表紙に登場する専門誌。写真のクオリティも高く表紙から推測すると、タイトルは「ビューティフル Oh! シャン」、内容はダイバーのためのものか、あるいはサカナの飼育に関するものかと思われるが、実はその中身は高齢者福祉に関するものである。タイトルは「老○」。マジで?
毎度読む人が限定されているからこそできる信頼のミスマッチ、中身とは程遠い表紙がかえって雑誌を作る人の顔を浮かび上がらせる。しかしこの雑誌、リニューアル後の実情は、内容に合った写真、高齢の方や施設のイベントなどが表紙になり、外見と中身がマッチして落ち着いたかと言うと、少々物足りないのである。なんでサカナ? と思いつつ、各地の海の生き物をカメラに収める関係者の並々ならぬ熱意を思うと、サカナロスの自分に気づく。だがリニューアル後もサカナは残った! 誌面上に小さなコーナーが設けられ、写真とともにコメントが添えられ、引き続き彼の情熱は継承されたのである。めでたしめでたし。
次に紹介するのは看護系雑誌。ある年には‘ネコ’を、次の年には‘イヌ’のラブリーな写真を表紙に採用。‘癒し’を最も必要としている業界だということがうかがえる。以前にもスイーツやモヒート、風景写真やイラストなどが表紙を飾り、精力的に表紙のイメージチェンジを計っている。ネコにしろ、カクテルにしろこれも外見から中身が想像しづらい雑誌だが、特定の読者向けの業界誌であるからこそ外見に思考をこらし、常にフレッシュな気持ちで仕事に挑めるようにとの編集者側の思惑が見て取れる(ですよね?)。シンパシーを感じつつも、なぜゆえイヌをチョイス? とも思うけれど。
また、その心は? と問いたくなるのが教育系の某雑誌。新エヴァンゲリオン「人類補完計画」を完全に真似ている。字体や文字の配色まで一緒、「新・学習指導要領補完計画」なる文言が躍っている。編集する人の趣味かなと推測しつつ、なんとも違和感がぬぐえない。これを手に取った同業者は何を思っただろうか? 「新・学習指導要領補完計画」、骨がおれる仕事なのは間違いない。
‘どこがそうなって、ああなったの?’という、ゲインロス効果(ギャップが大きいほど強い印象を与えるという心理学用語)的内容ほど想像力は暴走する。物事の背景にあるドラマを想像いや妄想し、新たなストーリーにスイッチするのは冒険のよう。ジャケットの裏に広がる見えない世界、妄想リフレインはとまらない。
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