デスクに一人の司書が座っているとします。デスクの上にはクエスチョン・マークをかたどった大きな看板があるかもしれません。いわゆる、レファレンス・デスクです。このデスクで来館者の質問を受けて資料や情報源を紹介するサービスは、図書館業界ではレファレンス・サービスと呼ばれます。たまに調査相談サービスといわれることもあります。そのデスクを挟んで来談者と司書がしていること、それは“対話”です。
AIも対話ができるようになったと言われますが、本当でしょうか?前回ご紹介した『BRAIN WORKOUT』という本に、AIの場合は対話というよりも言語インターフェイスによる単なる双方向のやり取りというべき、と書かれているのを見つけたとき、私は思いました。
レファレンス・サービスこそ本当の意味の対話型サービスではないか。いっそのこと “対話型調べものサポート”と呼んだらどうだろうか。レファレンス・サービスを得意とする司書は調べ物が上手なのは当然として、それ以上に、利用者との「対話」の手練れなのだから。
先の本には、こんな文章もあります。
<私は、対話は、相手を理解するだけでなく、言葉になり切らない感情や心的イメージを相手に聴いてもらうことで、まだ気づいていない自分自身を理解することであると思います。しっかりと目を見て傾聴してくれている相手と話しているうちに、自分自身から思わぬ言葉が出てくるときがあります。>安川新一郎『BRAIN WORKOUT』KADOKAWA
以上を、レファレンス・サービスに当てはめて勝手に読み替えると、
「レファレンス・サービスの長所は、来談者が、言葉になり切らない感情や心的イメージを司書に聴いてもらうことで、まだ気づいていない自分自身を理解することであると思います。しっかりと目を見て傾聴してくれている司書と話しているうちに、自分自身から思わぬ言葉(より深い問いや、本当に知りたいこと)が出てくるときがあります。」
となります。
こんなことを考えるきっかけになったのは、私が講師を務めている大学の授業で学生さんからいただいた質問でした。「インターネットを使って自分で調べることと比較した場合、レファレンス・サービスにどんな長所があるのですか。」これは鋭い質問です。長年、レファレンス・サービスを担当していた私だって、自分のための調べ物といえば、今では、インターネットでアクセスできるツールを使うことを最初に思い浮かべますからね。
この学生さんには、レファレンス・サービスの長所は来談者と司書の対話にあるのでは、と答えました。しかし、この長所も、いわゆる“対話型”生成AIの登場によって、その存在価値を脅かされているのかもしれません。レファレンス・サービスを担う司書としては、真に対話的な調べものサポートとは何かについて考え、実験し、その結果をシェアして改善する、というプロセスを繰り返すことが大切ではないか、と思うのです。
まずは、自分自身が日頃抱いている疑問を材料に、司書仲間と「対話型調べものサポート」の練習をすることから始めてはどうでしょうか。ぜひ、お試しあれ。
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