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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第37回 推シゴトこそ、司書のお仕事。

司書のみなさん、推シゴトしてますか?え、してないの?もったいない。

<おし【推し】:他の人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物。>デジタル大辞泉

ここでは「推シゴト」という言葉を、「人にすすめたいほど気に入っている人や物」を応援するために、実際に「他の人にすすめること」という意味で使っています。「推し活」とも呼ばれますね。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

先日、三宅香帆著『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない 自分の言葉でつくるオタク文章術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読み、思いました。ぜひ司書に読んでほしい!

本書には、自分が愛してやまない推しについて他者に向けて語り、書くのに役立つ知恵が満載です。たとえば、<他人の感想を見たい気持ちをぐっとこらえて、まずは自分だけのメモを取るクセをつけましょう>とか、<自分の考えていることを細かくトピックにわけて、それぞれについて言葉にしよう>とか。どれもSNSやブログで感想を書くための、きわめて実用的なTIPSです。

なぜ本書を司書に読んでほしいのか。それは、推シゴトこそが司書のキャリアにふさわしい、趣味と実益を兼ねた「生き方」だからです。司書の発信力を磨くためにも、新規利用者の開拓に熱心な図書館にとって無限の沃野であるオタクを理解するためにも、推シゴトにまさる実践はそうはないはずです。

そもそも、図書館のコレクションを利用者におすすめする仕事には、推シゴトと通じるところがあります。読者一人ひとりの潜在的な「好き」を掘り起こすべく、自分が気づいたその本のよさを紹介するわけですから。

図書館のPR紙、公式・非公式のSNS、そして特集棚のPOPと、推シゴトの機会に事欠かないのが図書館です。日本図書館協会の『図書館ハンドブック 第6版補訂2版』には、あるテーマを設定して関連する本を次々紹介していく「ブックトーク」、推し本対決イベントといえなくもない「ビブリオ・バトル」といった推シゴトが掲載されています。

当然のことながら、推せば推すほど、あなたの発信力は磨かれます。図書館はサービス業ですから、あなたの推シゴトがどの程度功を奏したかは、利用者の様々な反応から「推し」測ることができます。スキルの改善には好都合ですね。

さまざまな推しを尊ぶオタクは、図書館の上得意。推しを知り、味わうために図書館を利用する人は少なくないはずです。

たとえば、鉄道マニア。鉄道の絵本や図鑑に夢中だった子どもが、大人になっても鉄道関係の雑誌や専門書を読み漁るのは当然として、撮り鉄なら撮影のマニュアル本や写真集、乗り鉄なら旅の参考書や紀行文をどっさり借りる…公共図書館では当たり前の状況です。オタクの気持ちが分かる司書だったら、時刻表のバックナンバーを使ったワークショップや、図書館周辺の廃線跡を歩くツァーを企画し、ハートに刺さるポスターやPOPを作るでしょう。

私はといえば、アクティブ・ブック・ダイアローグ(ABD)の認定ファシリテーターになったのを機に、当分ABD推しに励むつもりです。司書のみなさんも、ぜひそれぞれの推シゴトをお試しあれ。ただし、司書の推シゴトは「押しつけ」ではなく「選択肢の提供」だということをお忘れなく。

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