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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第30回 体調不良は、未知の私からのシグナル

夏風邪に無理は禁物。分かってはいるんですけどね。

それは7月の最終週のことでした。

月曜から微熱と喉の痛み、咳に悩まされ、水曜に近所の内科へ。感染症じゃないことは分かったので、熱さましから漢方薬まで数種類の薬を処方してもらい、服用し始めました。

これで一安心とばかり、木曜から金曜にかけて飛行機で九州方面へ出張しました。ところが経過は今一つすっきりせず、声も出ません。とうとう、土・日に予定していた東京での私用は、すべてキャンセルすることになったのです。

次の週の月曜には、再び声が出るようになりましたが、しょっちゅう痰が詰まり、しわがれ声になる始末。結局、8月末まで、喉の不調と微熱に悩まされました。

これまでも、数年に一度、こういう状況に出くわすことはありました。でも、前回までに紹介してきた「学習する組織」やNVC(共感的コミュニケーション)の学びのおかげで、今年は「私の身体は、私に何を伝えているのか」と考えるようになりました。我ながら、少しは成長したな、と思います。私の見立てでは、こびとさんたちによる心と身体の総点検が行われていたようです。

この間、重厚な本は読めなかったけど、軽い読書が捗りました。たとえば…

プロセスワーク(プロセス指向心理学)の入門書、Daya『なんて複雑で美しい世界!!』(私家版)。
ポリヴェーガル(多重迷走神経)理論の入門書、吉田心理士『繊細な人のための「ポリ語」カウンセリング』(私家版)と浅井咲子『「安心のタネ」の育て方』(大和出版)。
雑誌「SPECTATOR」最新号の特集「自己啓発のひみつ」。
コラムニスト酒井順子の書道入門、『字を書く女』(芸術新聞社)。

1年前には絶対手に取らなかった本ばかり。すっかり嗜好が変わってしまいました!

どれも面白かったんだけど、きわめつけは、長田弘の詩集『世界はうつくしいと』。長田弘の詩がこんなに自分の心に沁みたのは初めてです。

<人の感受性にとっての、大いなるものは、
 すぐ目の前にある小さなもの、小さな存在だと思う。>
「大いなる、小さなものについて」(長田弘『世界はうつくしいと』みすず書房)

心身のささやかな変調を迎え、つらさを上回る好奇心に導かれて様々なシグナルを読み取り、細胞の一つ一つにまで「教えてくれてありがとう」という気持ちになっていました。だからこそ、心底思ったのです。「いいなあ、長田弘。」

司書ネコのみなさん。体に変調をきたしたら、まずは、寝たいだけ寝ましょう。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

回復して出勤したら、図書館の棚を眺め直してみるのもいいですね。今までまったく気にも留めなかった本が、あなたの心の琴線に触れるかもしれません。それは未読の本を介した、未知の自分からのシグナルですよ、きっと。もちろん、司書としてのあなたの選書の幅も広がったはずです。

その本を借りたら、おうちでゆっくりと「服用」してみてください。そのときの自分自身の反応を、愛ある好奇心で楽しむのがオススメです。お試しあれ。

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