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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第28回 対話を促す読書会、ABD

読書は対話を促すといわれます。どんな場合に、どんな対話を促すのでしょう。「誰と誰が対話するのか」に焦点をあてると、3つにタイプ分けできそうです。集団間対話、自己内対話、そして集団内対話です。

集団間対話は、異なる集団に属する二人以上の人々による対話です。「読書は対話を促す」というときは、大体、この集団間対話のイメージでしょう。「集団間」なんて言わなくても、ただ「対話」でいいと思われるかもしれませんね。でも、他の二つの対話と区別するために、あえてそう呼びます。

自己内対話は、自分自身の中で行う対話です。本を読んだとき、意識内に様々な矛盾する見解や疑問が湧き、葛藤するかもしれません。それこそが自己内対話のチャンスです。自己内対話については、別の機会に論じましょう。

今回、特に考えてみたいのは、集団内対話です。

職場、教室などの場を共有する小集団が一丸になったとき、日本社会は強い。それは私の実感です。しかし、一丸になる力は、同調圧力の源でもあります。異論を排除する力にもなるのです。激しく変化する状況に対処するには、異論(今までとは違う発想)が欠かせないのですけどね。

言い替えれば、私たち日本人は、集団内で真の対話を成立させることが苦手なんだと思います。でも、集団内に同調圧力と真逆の作用を生みだす方法はあります。読書会です。読書会で読まれる本は、集団に異論を注入する注射器みたいなものです。ただし、先生の知的権威に従って他の生徒が「唯一正しい」読み方の指導を受けるという形では、逆効果かも。

集団内対話を促す読書会の方法として、アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎、略してABD(Active Book Dialogue)があります。<1冊の本を分担して読んでまとめる、発表・共有化する、気づきを深める対話をするというプロセス>(公式サイトより https://www.abd-abd.com )からなる読書会の方法です。オンラインでもできますが、対面でやるときは一冊の本を章毎に裁断し、参加者全員に配ります。その場で各自の持ち分を読んで要約し、お互いに発表し合うわけです。公式サイトから、無料マニュアルがダウンロードできます。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

ここまで、社会人類学者・中根千枝の日本社会論、『タテ社会の人間関係』(講談社)をABDで読んだのがきっかけで考えたことを書きました。そのときは、ABD認定ファシリテーターの長谷部可奈さんの見事な進行で、創造的な対話が実現しました。ただし、そこは「集団間対話」の場でしたけど。

図書館員同士のABDは、図書館現場の活性化にも役立つでしょう。たとえば、『市民の図書館』(日本図書館協会)や『図書館の設置及び運営上の望ましい基準』(文部科学省)は重要文書です。でも、一人で読むのはしんどいですよね。ABDは住民の読書と対話を推進するツールにもなるけれど、まずはあなたの職場内で実践してみては?お試しあれ。

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