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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第27回 組み立てラインを停止する自由

「品質管理を図書館に応用できないか?」

そう考えて、工場などで導入されている品質管理(Quality Control:略してQC)に関する本を何冊か読み、W・E・デミングという名を知りました。統計学をベースにQCの理論を創造したデミングは「品質管理の父」と呼ばれます。晩年、教育分野でのQC推進のための講演会に招かれた彼は、こう嘆いたそうです。

<「あなたたちは分かっているのか?あなたたちが進めているのは、この国の公立学校を再興するために、この国のビジネスを破壊したマネジメント体系を当てはめようということだぞ?」>(ピーター・センゲ『W・エドワーズ・デミングが語った「教育とビジネスの深いつながり」』Learning Sandbox https://mylearningsandbox.wordpress.com/

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

工場の組み立てラインで問題が発生したとき、現場の人々が自主的に集まって話し合うことがQCには欠かせません。現場がラインを停める権限を持つことは、QCがホンモノであるために必須の条件です。それを理解せずにQCを導入しようとすれば、工場に限らず、ビジネスも教育も台無しです。彼が批判するのは「組み立てラインを停止する自由」を現場に与えない、ニセモノのQCでした。

以前にもこのコラムで紹介した「学習する組織」の提唱者、ピーター・センゲは講演で、先のデミングの言葉を引いたうえでこう語っています。

<この国の教師のほとんどは、ほとんどの時間、ほとんどの学校において、組み立てラインの作業員のように感じています。>(同上)

図書館は、停止ボタンを押せない組み立てラインのような職場や教室を抜け出した人々を歓待します。なにしろ、来館者が自由気ままに読んだり、考えたり、会話したり、ただ“ぼーっとする”ことだってできる場です。読書についていえば、読む人は本だけでなく、その読み方も自由に選ぶことができます。速読、遅読、飛ばし読み。積読本を枕にまどろむこともできます。利用する人それぞれに固有な時間が流れているのです。それが許される場所であることが現代社会における図書館の存在意義ではないか、とさえ思えます。

ところが、職場としての図書館は、現場には停められない「組み立てライン」になっている、と感じることが増えています。その背景の一つに、貸出冊数や入館者数の絶対化があるのではないでしょうか。これらは、図書館の利用状況を把握するための重要な指標です。しかし、図書館の目的と同一視され、より高くより早い数字を達成することが最優先となるのは行き過ぎです。どうも、そんな図書館が増えているように思います。現場は「組み立てライン」を停めることができるでしょうか?できないとしたら、何がそれを妨げているのでしょうか?

あなたが現場のルールづくりに関わることができるなら、現場スタッフ全員に、仕事上の疑問や意見を出す自由を認めることをお勧めします。それが無理だとしたら、自分で決められる範囲の「停止する自由」を、自身に対して認めるところから始めるのもよいのでは?ぜひ、お試しあれ。

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