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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第25回 マップをオフにして旅に出よう

今月(2023年5月)、四国のお遍路に出かけます。四国八十八カ所のお寺を歩いて巡礼する予定です。とはいえ、一度に回ろうとすれば2カ月近くかかります。休暇が取れるときに数日で歩けるだけ歩くことを繰り返す「区切り打ち」をするつもりです。へんろみち保存協力会議が発行した『四国遍路ひとり歩き同行二人[解説編]』という定番的なガイドブックを読んだら、興味深いことが書いてありました。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

<遍路は、進路を住民や道人に尋ね、その情にすがりながら札所をめぐるのが本来の姿。地図や道しるべばかり頼って「対話」を欠いた歩行は修行の意味をなさない。>

実は私、他人に道を尋ねるのがすごく苦手です。そもそも他人に質問をしたり、頼みごとをしたりといったこと全般が不得手なんです。

なぜ、そうなのか、と自問したとき(自分に問うのはOK)、無知を他人に晒す無防備さに耐えられないのかも、と気がつきました。よい答えばかりが評価され、よい問いは評価されにくい教育環境で、優等生をめざしているうちにそうなったのかもしれません。

図書館のレファレンス・サービスがなかなか利用されないのは、一つにはこうしたタイプの人が少なくないからかもしれません。私自身も、利用者としてレファレンス・デスクで何かを尋ねるという経験は数えるほどしかないのです。長年、レファレンス・デスクでさまざまな質問を受ける立場にあったにもかかわらず。

人一倍、方向音痴な私です。先のガイドブックの方針に従うとすれば、少なくとも「できるだけ他人に尋ねない、頼みごとをしない」という長年の習慣は捨て去るしかありません。

少し脱線しますが、この2月からNVC(Nonviolent Communication)を学ぶコミュニティに参加しています。NVCは共感的コミュニケーションとも呼ばれます。一言でいえば、他人や自分が心の底で本当に必要としていること(ニーズ)に注意を向け、共感し、お互いのニーズを満たし合うための方法です。

自分のニーズを満たすためのリクエストは強要ではありません。リクエストを受けてもらいたい相手のニーズを知ることも大切です。相手が差し出してくれた好意の背後にあるニーズが感じられたら、感謝と共に素直に受け取ることができるような気がします。ちなみに四国では、お遍路に食べ物、休憩する場所など、無償の好意を差し出す「お接待」という文化があるそうです

歩き遍路に出ることで私自身のどんなニーズが満たされるのかは、まだ分かりません。歩いているうちに分かるだろう、というノリだったけど「リクエストする修行」をしたがっている自分がいることだけは間違いなさそうです。そして、こうも思うのです。自他のニーズにつながり、素直にリクエストできるのは、レファレンサーに限らず、すべてのライブラリアンにとって大切な資質ではなかろうか、と。

旅立ちには打ってつけの季節です。あなたもグーグルマップをオフにして、道を尋ねる修行の旅に出てみませんか?お試しあれ。

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