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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第23回 物語絵本でまちを育む

住民参加によるまちづくりのパイオニアとして知られる延藤安弘(えんどうやすひろ)が亡くなって5年。彼が遺した5万冊以上の研究資料や蔵書は主に名古屋市内で保管されています。この膨大なコレクションを管理するためのプロジェクトが延藤文庫です。

不思議なことに蔵書のうち約5千冊は絵本なんです。まちづくりに絵本?

まちに住まう人同士がつながるコミュニティをどうデザインするかについて、当の住民達と対話するとき、延藤は必ず絵本を見せるところから始めたといいます。そのわけについて彼はこう書いています。

<絵とストーリーの絶妙なまざりあいにより、思いがけない感覚が呼びさまされたり、心の中に眠っている想像力のつばさを広げられたりする時、人々は自分も絵本の中の物語世界を生きてみたいという意欲が喚起されていきます。想像力とはファンタジーでも単なるイメージでもありません。それは日常世界に隠されている頑なにこわばった住まいとまちの表情に柔和さや笑いをそえる「もう1つの現実」を志し、「もう1つの真実」を構想する能力です。>延藤安弘「スマイル住まい・笑うまち」、『世界の住まいとまち絵本展』図録所収(2007)

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

延藤文庫をどんな風に現代に活かしていくのか?そんなことを考え、語り合う場として、この1月に「本のある場でまちを育む」というイベントを開催しました。彼の晩年の活動拠点だった、名古屋市中区錦二丁目のスペース七番が会場です。私が所属する東海ナレッジネットが主催し、大人から赤ちゃんまで約40人が集まる会場で、私は延藤に倣って絵本『としょかんライオン』(岩崎書店)を朗読しました。現役の図書館員だったとき以来、約10年ぶり。ちょっとあがってしまい、最初の1ページは読み忘れましたけど。

延藤文庫のような個人のコレクションの公開と活用は、決して生易しい課題ではありませんが、見知らぬ者同士でも和やかに語り合える雰囲気になるのに、絵本は確かに役立ったようです。

実はイベントの直前に、晩年の延藤が書いたエッセイを読み、錦二丁目に民設民営の「コミュニティ図書館」を創ることを彼が夢見ていたと知りました。公共図書館とまちづくりというテーマに長年かかわってきた私にとって、こんな夢のバトンを引き継ぐお手伝いができるのは嬉しいことです。

当日のパネルディスカッションでは、延藤から直接薫陶を受け、文庫の運営に携わっている名畑恵さんや三矢勝司さんから「物語り計画学」について教えていただきました。どうやら延藤は、人々の想像力を呼び起こす物語の力をコミュニティのデザインに活かす方法論を練り上げていたようなのです。「物語り計画学」にはコミュニティ図書館を夢で終わらせないためのヒントがあり、その方法は錦二丁目だけでなく、世界中の図書館にも応用可能だろう。そんな風に私は思いました。

あなたも、まちづくりのワークショップに出かける機会があったら、お気に入りの絵本を携え、その場で朗読をしてみませんか?ぎすぎすしたやりとりに “柔和さや笑いをそえる”きっかけになるかもしれませんよ。ぜひ、お試しあれ。

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