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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第16回 カクテルが、お好きでしょ?

 去る6月15日、「Cocktails meet books〜バーテンダーとライブラリアン〜」と題したイベントが、豊橋市まちなか図書館で開かれました。しかけたのは昨秋の開館当初から同館の司書を務める、ロックと酒に詳しい友人。プロのバーテンダーがつくったギムレット(文学史上名高いカクテル!)を飲みながら物語の世界へ誘うという、教育機関である図書館としては挑戦的な趣向です。先約がなければ駆けつけて、みなさんにご報告できたはず。代わりに今回は、図書館を愛用する方々にうってつけの一杯をご紹介しましょう。

 その名も「カクテル読み」。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 この魅力的なレシピを生み出したArisa Idoさんによれば、「カクテルのように、別々の書物(味)を掛け合わせてその偶然の共通点を見出しながら読むこと」を指すのだとか。飽きっぽい性格で、同じ本をずっと読むことができないから数冊を同時並行で読むことにして、その方法にこの名前を付けた、と彼女は書いています。(「Monkey Radio」No.45,2022.6.8)

 カクテル読みには、飽きっぽい人に独占させるには勿体ないご利益があります。彼女曰く、「まだ前の本の記憶が新しいまま、別の本を読んだりするので、頭の中で結ばれることのなかった点と点が奇跡的につながり、自分だけのオリジナルカクテルが出来上がります。」複数の著者を異世界から召喚して、自分の頭の中でブレーン・ストーミングをさせるような話ですね。

 実は、私もArisaさんと同様に1冊の本だけを読み続けることができない性格。自ずとジャンルの異なる本を数冊並行して読み進めることになります。すると、とんでもないアイデアが浮かぶことがあるのですよ。まさにジャンルを越境する知の創発。「こんなすごいことをよく思いついたぞ、自分。」と感心するのですが、よく考えてみれば素晴らしい本の書き手たちが勝手に脳内で議論してくれた成果をいただいているだけなのかも。

 とはいえジャンルの異なる本を購入するのは、お金も手間暇もかかるもの。数万から数百万の「素材」を無料で使える図書館こそ、カクテル読みに最適な環境じゃありませんか?貸出冊数の制限一杯まで分厚い本を借りる人の気が知れないなんておっしゃる方もいますが、私はそう思いません。あらゆる時代、あらゆる地域の知恵ある人たちを惜し気もなく召喚しまくってこそ、新しいオリジナルのカクテルを生み出すことができるのですから。

 さて、先に引用した「Monkey Radio」は、雑誌「スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビュー 日本語版」(https://ssir-j.org/)の創り手や読者が集まるコミュニティの会員向けメール・マガジンです。豊橋のイベントの2日後、6月17日に同誌のVol.2が発刊されました。テーマは「社会を元気にする循環」。直接、図書館を扱った記事はないけれど、「知の循環」を担う図書館のあり方について多くのヒントが得られます。本書を基酒(ベース)にして、新しい「カクテル読み」を自分で試すのも、レシピを本の展示のかたちで提案するのも、それぞれ面白そう。展示のタイトルに困ったら「カクテルが、お好きでしょ?」がオススメです。ぜひ、お試しあれ。

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