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タイトル 猫の手は借りられますか〜図書館肉球譚〜

第12回 本を読む、それは「狩り」だー。

 今回のタイトルは、平積みになった講談社現代新書の帯に印刷されていたキャッチフレーズです。『読書とは何か;知を捕らえる15の技術』と題されたその本の著者は生物学者の三中信宏氏。「狩り」という言葉に心惹かれ、レジに直行しました。

 書店の近くのカフェでさっそく拾い読みすると、こんな言葉が目に飛び込みました。

挿絵
※挿絵はクリックで拡大します。

 <狩猟者としての読み手は、読みながら、本の全体像(獲物)を知る手がかりを集めます。したがって、本をとりあえず読み終わったとしても、まだ、手元にある手がかりから全体像を再構築する作業が残っているわけです。>

 その「全体像」なるものは、読者にとっては「未だ知らざるもの」、すなわり「未知」です。未知に触れた後の自分が、どう変わるか予測なんかできませんよね?でも、変わる自分を想像すれば、心が躍ります。読む前から内容の察しがつく本なんて、読む気が起こりません。とはいえ、すべて未知だったら読むこと自体が不可能でしょう。本は、未知と既知(つまり、既に知っていること)の中間にあるから読み続けることができるのです。

 私は「●●になるための必読の100冊」といったブックリストが大好きですが、その通りに読んだことはありません。数冊(ときには1冊の、それも前書きだけ)を読んだ後は、自分の興味に従ってリストからどんどん逸れていきます。それでいいんじゃないでしょうか。私にとっての必読書なんて、私にもわかりません。なにしろリストに並んだ未読の本の中身も、読みたいと思った私の欲望の源も未知なのだから。

 図書館サービスの精髄ともいえる図書館らしいサービスが、レファレンス・サービスです。利用者へのインタビューで得た手がかりや、既に手元にある資料に隠された痕跡から、未知の獲物(資料)の兆候やら気配やらを読み取り、推し測り、追い詰めていくこのサービス、実に狩猟的じゃないでしょうか。

 話は飛びますが、野田サトル氏の長編漫画『ゴールデンカムイ』を読んでいます。そのヒロインであるアイヌの少女アシリパこそ、知の狩猟に携わる司書の理想像かも、と妄想します。狩猟者としての腕を磨くなら、北海道の原野で狩りの腕を磨いたアシリパ同様、図書館という荒野に生い茂る本の森で「狩る」経験を積むことも修行。それが楽しくなったら、狩る動物としての野生(?)を取り戻した立派な司書ネコです。教科書として、三中氏の本と併せ『ゴールデンカムイ』も役に立つ、かな?お試しあれ。

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