思い立ったが吉日と、一か月かけて本棚を整理した。最近は自宅まで引き取りに来てくれる便利なリサイクルのシステムがあるので、400冊ほど処分した。真っ先に手をつけたのが参考書や実用書類で、これらは迷うことなく箱に詰めることができた。ところが小説になると遅々として作業がすすまない。
自分が本を買うときの基準として、まず好きな作家の本(予約注文をして必ず手に入れる)、図書館で借りて、それでも手元に置いておきたい本、ばったり出会ってしまった本、といったところなのだが、こうやって買っているとどんどん本が増えていく。読んでいない本を捨てるのは貧乏性の自分にはぜったいに無理だ。また、ここ最近は歳をとったせいか再読することが増えた。失敗したくないから面白いとわかっている本を確実に楽しみたいのである。
絵本も減らすことができなかった。繰り返して楽しめるのが、絵本のいいところだが、おかげで手放すことができない。
『さるのひとりごと』(松谷みよ子/文 司修/絵 童心社)は、10年ほど前に読み聞かせボランティアの方が読んでくれて出会った本だ。おはなし会で子どもたちと一緒に聞いたあと、その時はなぜかすぐに手に取らなかった。内容は、島根県の民話をもとにしたもので、ある日サルが海を見ながらひとりごとを言っていると、「うん」とあいづちをうつものがいる。サルはそれが気に入らず、返事をしたのがカニだとわかると、つかまえて石でつぶしてしまう。しかしその後、さみしくなってつぶれたカニをだんごにして、自分のそばにおくとまた話しかけて返事を待つのだった、というなんともシュールな話なのだが、その時に読んでもらった声のトーンやリズムが、いまでもよみがえってくるほど心地いいものだった。そしてタイトルも作者もすっかり忘れていたにも関わらず、最近、偶然手にする機会があり、当時のことを思い出したのだった。記憶とは面白い。そして、すでに品切れで重版未定となっていたものの、どうにか手に入れることができた。
あらためて読んでみると、初めて聞いたときはサルに注目していたが、今はつぶされたにもかかわらず、返事をするカニの心情が気にかかる。再読の醍醐味だ。
結局、本棚はあまりかわりばえすることもなく、お気に入りの本を手前におく程度で終わってしまった。床に積んでいた本が減り、多少は手に取りやすくなったものの、まだまだ理想の本棚には程遠い。できれば一目でタイトルが見えるようにしたいのだが、いつになったらその日はやってくるのだろう。そして、困ったことに今月もまた新しい本が増える予定だ。
読書の秋、寝る間を惜しんで本を読むことにしたい。(真)
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