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タイトル 本の風

第41回 「にんげんのせんぱい」

 このところ立て続けに、子どもたちに「すごい!」と褒められた。その理由は、ゴキブリを退治したからである。
 あるときは学校で。またあるときは自宅で。虫が苦手ないまどきの子どもたち。触れるのはせいぜいダンゴムシくらい、という子も多い。したがって虫が現れるたびに、そのへんにいる大人(私)に助けをもとめてくるのだが、正直ゴキブリは私だって嫌いだ。けれども、見てしまったからにはしかたなく戦うことになる。なるべく心を無にして、その時いちばん強そうな武器をみつけてなんとかする。楽勝だと思ったことは一度もない。いったい彼らは、なぜあんなにしぶといのだろうと思い、図書館で調べてみた。

 『ゴキブリ400000000年』(松岡洋子/文 松岡達英/絵 北隆館)を読んで納得した。タイトルどおり、ゴキブリは「生きている化石」といわれるほど大昔から存在していた。(この本は1970年に出版されたものなので、最近の研究では、2億年前のペルム紀に出現したという説もある。)
 本の中で主人公が、「きらい ゴキブリ大きらい!」というと、ゴキブリの先生が「そうおこるものじゃないよ。この地球では人間よりゴキブリのほうがせんぱいなんだから。」と身も蓋もないことをいう。先生は触角を切って、動きが鈍くなったゴキブリをつまみあげて、にこやかにゴキブリについて語る。どんなにゴキブリが隠れるのが上手で、なんでも食べて、すばらしい能力で生き残ってきたかを。数あるゴキブリ本の中でもイチオシなので、ぜひ読んでみてほしい。
 松岡達英さんの絵は生きものへの愛があふれているので、ゴキブリも緻密に描かれているのだが不思議なことに怖くない。捕まったゴキブリが6匹、涙をながしているページがあるのだが、かわいそうで逃がしてあげたくなるくらいだ。おそるべし絵の力である。

 そのほか『冒険図鑑 ―野外で生活するために―』(さとうち藍/文 松岡達英/絵 福音館書店)は松岡さんの絵をたっぷり楽しむことができる。おすすめは「動物のふんと食べ跡をさがす」項目で、10種類以上の動物のふんが紹介されているのだが、そのリアルなことといったら。それなのに美しいのだ。ここにも愛がつまっている。ほんとかなと思ったら、ぜひその目で確かめてほしい。(真)

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