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タイトル 本の風

第39回 「猿も木からたびたび落ちる」

挿絵
『錦鯉を創る 新潟から世界へ』
(松沢陽士/写真と文 小学館)

 司書の仕事をしていて楽しいことベスト3に入る、レファレンス(本の質問)は経験を重ねるほど腕の見せどころ、と言いたいところなのだがときどき失敗することもある。

 最近だと「コイの本ありますか?」と聞かれ、「こんな本はどう?」と『錦鯉を創る 新潟から世界へ』(松沢陽士/写真と文 小学館)を出してきたところ、「違います、レンアイの本です」ときっぱり言われたことだ。そっちのコイとは思わなかった。相手は小学校中学年のかわいい利用者。レファレンス業務のときの鉄則である、相手へのインタビューの重要さを思い知らされつつ、気に入ってもらえる本はないかと、『しろいうさぎとくろいうさぎ』(ガース・ウィリアムズ/文・絵 まつおか きょうこ/訳 福音館書店)を手渡してみたが、どうも違うらしい。うさぎの恋じゃだめか。じゃあ定番のこれならどうかと『100万回生きたねこ』(佐野洋子/作・絵 講談社)を渡してみるもいまいちの様子。猫の恋もだめなのね…。あ、でもこれは恋というより愛がテーマか。いろいろ探してみたものの、「じゃあ、いいです」と言われてしまった。ごめんね、また探しておくねと謝りながら、宿題にさせてもらった。

 それにしても、思い込みとは恐ろしい。最近我が家にグッピーがやってきて毎日えさをやっているせいか、頭の中が魚のことでいっぱいだったのだろうか。人間の脳は不思議である、と思うことにする。
 娘が友達からもらってきた、グッピーの稚魚は家族の誰からも関心をもたれずに、私だけがせっせと面倒をみることとなった。本やインターネットでたくさん調べた成果もあり、今日も元気に水槽で泳いでいる。その隣では3年前から飼っているメダカが、世代交代しながら8匹で暮らしている。こちらはベランダで厳しい冬を超えたつわものたちだ。飼育係の自分としては、末永く世話をしていきたい。

 「コイ」と聞いて、はじめににすすめた 『錦鯉を創る』は新潟で鯉屋を営む和田さんが、新しい品種をつくるためにどんな作業をしているか、詳しく紹介している写真絵本である。さまざまな錦鯉の美しさにまずおどろく。「浅黄」、「大正三色」「ネズ黄金」に「孔雀黄金」と、鯉の品種の名前もかっこいいのだが、新しい錦鯉である「麒麟」も白金色に黄金色の模様がのったとてもきれいな魚で、海外から買いに来る人がいるのも納得である。
 立派な錦鯉が重なって大きな口でえさを求める見開きの写真は、ぞくぞくするほど迫力がある。鯉のエサやりや、釣りの楽しさを知っている人なら、絶対楽しめる本だろう。
 恋の本もいいけれど、今は鯉の本によりときめく。共感してくれる人、どこかにきっといますよね。(真)

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