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タイトル 本の風

第38回 「くだもの愛」

挿絵

 くだものが好きだ。最後の晩餐は何を食べる?という他愛のない問いをしたりされたり、答えを妄想したり、多くのひとが一度は考えたことがあると思う。私だったらにぎり寿司かお蕎麦かな、シンプルにおにぎりかしら、甘いお赤飯もいいな(私の暮らす秋田県横手市のお赤飯は甘いのだ。亡き祖母の作るお赤飯が一番美味しかった。)と食いしん坊な私はあれこれ迷うけれど、最近はくだものがいいと思っている。くだものなら何でもよい。その時の旬のものであれば尚よい。くだものの多くは皮をむいて食べなくてはいけないので面倒くさい、手が汚れるからあんまり好きではないと友人は言う。私はその面倒くさい工程も、手も口のまわりもじゅるじゅると汚れることもひっくるめて、くだものが好きだ、とても。

 以前、全国から図書館員が集まる催しが東京で開催されたときに、愛媛県在住の方と挨拶を交わした。別れ際に私の手のひらにのせてくれた柑橘ひとつ。小ぶりでぎゅっと硬めのゴツゴツとした橙色のそれは、想像を遥かに超えて甘く瑞々しく、これまでに食べたどの柑橘よりも美味しかった。頂戴したときに品種を言われたのだけれども、すっかり忘れてしまって思い出せないのが残念である。でも、そのあとに柑橘類をお取り寄せするときは迷わず愛媛県の農家さんから選んでいる。様々な品種があってどれもこれも美味しい。

 愛媛県=ミカンのように、秋田県=リンゴかしらと思い調べてみると、リンゴの生産量は青森がダントツ1位。そのあとに長野、岩手、山形、福島、秋田と続く。その秋田県内のリンゴのほとんどを横手市で作られているとのことだから、横手市=リンゴが正解ということにしよう(笑)。
 そんなこともあって横手市の図書館ではリンゴについてのレファレンス(問い合わせ)がよくある。横手市の農業を調べてまとめるといった小学校の社会科の単元のようだ。初めて横手市でリンゴの苗木を栽培した伊藤謙吉氏、開墾を広げた藤原利三郎氏など尽力した人物のことや生産量、栽培面積、品種などを知りたいというのだが、小学生でも理解できるように書かれた資料はとても少ない。町史をはじめ大人向けの資料に付箋をはさみ、何とか読み解いてもらえるようにお願いすることは心苦しく申し訳ないことである。リンゴに限らず定期的にレファレンスがあるテーマについては、図書館でまとめておきたいと思いつつ月日が経っている。なんとか取り掛かりたいものだ。

 今回はくだものがたくさん登場する大好きな絵本を紹介。
『ハンダのびっくりプレゼント』アイリーン・ブラウン/作・絵、福本友美子訳、光村教育図書(2006年)
 主人公のハンダが友人のアケヨのところにくだものを届けるお話。「アフリカのケニアに住むルオ人の子どもたちをモデルにしています」と解説に書かれているとおり、ケニアの生活の様子がカラフルに美しく描かれている。次々に出てくる美味しそうなトロピカルフルーツとたくさんの野生動物たち。絵を見ているだけでストーリーがわかるから、小さな子どもも楽しむことができる。短い物語の中に面白さが詰まっていて、ラストのオチもしっかりあって「もう一回!」と読み返したくなる絵本。
 ハンダがアケヨと一緒に食べるくだものはミカン。はじけるようなふたりの笑顔が印象的。私もミカンが食べたくなったので、またお取り寄せサイトを吟味中。楽しみ楽しみ。(石)

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