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タイトル 本の風

第37回 「降っても晴れても」

 13年前の東日本大震災のとき、3日間の断水と停電を経験した。かなり大きい余震の続く中、電車も止まり通勤もままならず、10キロ離れた職場まで自転車で通った。そのとき自分は妊婦だった。困難の対処のしかたは人それぞれだが、私の場合は情報をある程度シャットダウンする必要があった。新聞とラジオで最低限のニュースを知るだけで十分だった。お腹の子に心配させたくなかったからである。だいじょうぶ、だいじょうぶちゃんと守ってあげるからね、という気持ちで日々乗り切っていた。震災翌日は、上の子の学童保育の説明会だった。やっとの思いで帰宅して疲れ切ったママ友たちと、ぼんやりした頭で出席した。保育園児は4月1日から学童にお世話になる。朝8時から夕方の6時まで、弁当持参でがんばってもらった。

 妊娠中はナーバスになる。職場での昼休み、休憩室でテレビのニュースを見ながら「日本はもうだめだなあ」とつぶやかれた一言に、なんだかとても傷ついた気持ちになることもあった。普段の自分なら、「お腹で子どもが聞いてますのでそんなこと言わないで」と文句も言えるのだが。
 6月になって予定より1週間遅れで、陣痛がやってきた。イテテ、イテテ早く終われーと思いながらも、明日出ておいで、そうしたらおじいちゃんと同じ誕生日になるから、いっぱい面倒見てもらおうね、と言い聞かせていたら、ちゃんと日にちをまたいで0時3分に生まれた。
 下の子は、暑い日も寒い日も、いつでもおんぶされて、上の子の習い事やらなんやらで連れまわされることになった。
 ここで問題。「おかあさんたちはみんなひとつの、てんごくをもっています」それはいったいなんでしょう。正解は「やさしいせなか」。どうしてなのか知りたい人は『てんごく』(新美南吉/詩 長野ヒデ子/絵 のら書店)を読んでほしい。今、すべてのおかあさんたちが、やさしいせなかで、安心して子どもをおんぶできて、子どもたちも安心しておぶわれていられたら、どんなにいいだろうと願わずにはいられない。そんな本である。

 さて、そのときの子どもはあっという間に成長し、令和を生きる小学生となった。学校から支給されたタブレットを自由自在に操り、検索もオンライン授業もお手のもの。料理も実験も絵を描くのでも、動画を見ては、いろいろやっている。高学年にもなれば親の出番はほぼないに等しく、最近したことは制服の採寸についていったことくらいである。
 あと数日で小学校も卒業だ。PTAも旗振り当番も歳の差姉妹のおかげで12年関わった。やっと終わってほっと一安心。中学校にはPTA活動はないということで、これは時代が変わったということだろう。あとは楽しく読み聞かせのボランティアに参加するだけだ。
 卒業式や入学式よりも、中学生の子どもたちにどんな本を読もうか。今からそちらのほうでわくわくしている。(真)

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