今年は近年稀にみる暖冬で小雪の冬だった。私が暮らす横手市も例にもれず、日々の除雪作業をしたのは数える程度、家の屋根の雪下ろしは一度もしなかった。二年前や三年前の豪雪を思えば天国である。とはいえ、温暖化の影響による様々な心配事は尽きないし、県内各地域の小正月行事は雪が少ないことにはいささか盛り上がりに欠けてしまう。
秋田県内は少し調べただけでもこんなにも冬のお祭りがあり、今年はコロナ禍が明けたにもかかわらず、暖冬により開催が厳しいものもあったと聞く。かまくらで有名な横手の雪まつりの期間中(2月15日から17日)も道路や田んぼなど雪はすっかり溶けてなくなり、気温も高く、あげくに雨が降るという、最悪のコンディションだった(気象庁のHPによると降雪も積雪も0センチ)。そんな中でも多くの人の尽力により開催されたかまくらまつりの様子を、関東から遊びにきてくれた友人たちと一緒に見ることができて本当によかったと思う。広い会場の様々なところで振る舞われるおもてなしに感激することばかりだった。
あちこちで「この冬は雪がない、こんなのはじめて!」と言っていたのだが、令和2年も平成19年も昭和47年も、雪がなかったんですよ、と知人がSNSに投稿していた。令和2年なんてたったの4年前。え?そうだっけ??と思って気象庁のHPで公開されている過去の気象データを調べてみた。観測地点の選択地から秋田県横手市を選ぶ。1976年以降のデータを見ることができ、降雪量は1980年から記録が残っていた。確かに、令和2年2月15日は降雪1センチ、積雪20センチとある。平成19年2月15日は降雪10センチ、積雪9センチ。昭和47年のことは『横手のかまくら』(横手市教育委員会・1999年3月発行)に次のように書かれている。
「昭和47年は本当に雪の少ない年であった。かまくらの2月15日は雪が消えてしまい、家のまわりはすっかり春めいて蕗の薹はとうに芽を大きくし、福寿草は美しい花を咲かせていた-略-隣県岩手の湯田町からトラックが雪を積んで何十台となくならび、雪を運び、多くのかまくらがつくられた。」
今年の0センチはあまりにも少ないが、決してこんなのはじめて!などと言ってはいけないなあと反省。個人の記憶ほど危ういものはない。記録って大事。
例年よりも気温が高く雪が少ない冬でも渡り鳥は飛来し、ハクチョウの姿が多く見られた。農道を運転していると、雪が溶けて土がむき出しになった田んぼが一区画だけ真っ白に見えるところがある。目を凝らすと、そこにはハクチョウがひしめいている。忙しく落ち穂を食べるハクチョウも、まあるくなって眠っているように見えるハクチョウもいる。極寒のシベリアから冬の横手まで飛んできたハクチョウは、春になるとまたシベリアに帰っていくのだろう。群れをなしてV字を描き飛ぶ様はすばらしく美しい。鳴き声を耳にして空を見上げるたびに『おおはくちょうのそら』(手島圭三郎/作・絵本塾出版)を思い出す。
この絵本は北海道生まれの木版画家、手島圭三郎氏の代表作である。6羽のおおはくちょうの家族の中に病気で飛ぶことができない1羽の子どもがいる。暖かくなってもその子どもが元気になるまではと、北に向かうことを遅らせていたけれども、とうとうお父さんおおはくちょうは旅立つことを決断する。この絵本を読み聞かせで読む時には、そのシーンは何度読んでも声が詰まってしまう。一緒に帰ることができなかった家族の別れは悲しみでいっぱいだけど、自然の中に生きる生きものたちの力強さが溢れている物語だ。
冬から春へと変わる季節は変化も多い。青空の中、V字を描き高く高く飛ぶハクチョウのように飛躍できること願って、またがんばろうと思うのでした。(石)
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