図書館の仕事に、蔵書点検というものがある。簡単に言えば本の棚卸しだ。公共図書館に勤めていた時は10万冊以上の本を、何人もの職員で手分けして行っていた。それはそれで、ちょっとしたイベントのようで楽しかったのであるが、今勤めている学校図書館は、一人職場なので図書室内にあるすべての本のバーコードを自力でなぞらなければならない。一万冊近い本を1週間以内に点検することができるのか、始める前は不安だった。しかし、これがやってみると意外なほど楽しくてたまらないのだ。なんというか、やっと本「全員」と挨拶ができた気分なのである。
知らなかった本、探していた本、あの子が好きそうな本、とパソコンの検索画面からだけではわからなかったものが、手に取るとわかるのはなぜだろう。どうしたらこの本が日の目を見るか考えていると時間があっという間に過ぎていく。精一杯ピッチを上げているつもりだが、修理したい本の山、次のテーマ展示で並べたい本の山、特設コーナーを作る本の山などがいくつもできていて、これで無事に開室できるのかハラハラドキドキである。
とはいえ、この楽しい気持ちを誰かにわかってほしい。それを伝えるのにぴったりの絵本がある。『あたまにつまった石ころが』(キャロル・オーティス・ハースト/文 ジェイムズ・スティーブンソン/絵 千葉茂樹/訳 光村教育図書)は、子どものころから石が好きで好きでたまらなかった主人公が、夢をかなえるまでの話である。この本が出版された頃、当時30代だった私はいい本だな、と思っただけだったが今回読み返して最後のページを読んだとき気がつけば泣いていた。歳をとると涙もろくて困る。けれどもやっとこの本の良さがわかった気がした。本の最後に書かれていた言葉は、主人公の娘である著者が記した「父ほど幸福な人生を送った人を、わたしはほかに知りません。」という一言だったのだが、この本を読んで共感できる人とはきっといい友達になれそうな気がするので、読んでみてほしい。
また、訳者の千葉茂樹氏はいつも素敵な本を出してくれるのだが、『雪の写真家 ベントレー』(ジャクリーン・ブリッグス・マーティン/作 メアリー・アゼアリアン/絵 千葉茂樹/訳 BL出版)も、一生をとおして雪の結晶に魅せられたベントレーの人生を絵本にしている。これもまた、ラストでしんみりしてしまうのだが、それでも人が好きなことを一途に追いかける素晴らしさにきっと心を動かされるだろう。
疲れきったスマホ脳に、ぜひ。やっぱり本はいい。(真)
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