「『ハリーポッター』はどこにありますか?」
定期的に来館する小学3年生のSくんがお父さんに背中を押されながらカウンターにいた私に聞きにきた。これまで好んで読んでいたものとはちょっと違うから、いつもの棚で探せなかったのだろうと思って、一緒に棚まで行くことに。
本を手に取って中を見せると、その分厚さと漢字の多さに戸惑っていることがよくわかる。付いてきたお母さんに「お母さんと一緒に読むのはどうですか」と聞くとSくんは一人で読みたいのだと言う。「あ!そうだ!ちょっと待っててね。書庫から別のを持ってくる!」と小走りで書庫へ。
持ってきたのは一番最初に発売された大判のハードカバーのもの。児童室の棚に並んでいたのはこの後に出たソフトカバーの携帯版。「これ(ハードカバー)のほうが字が大きくてふりがなが多いよ」と言ってお渡しするとじっくり眺めてから「これで読んでみる!」とにっこり。
貸出処理をしたあとに「続きが読みたくなった時はまた書庫から出してくるから言ってね」と伝えるとお父さんもお母さんも「どうかなー頑張れるかなー」と微笑んで帰られた。
きっちり2週間後「続きを出してください」と声をかけてきたSくん。その後も続く物語の世界を楽しんでいる様子を見て心躍る私は、幸せな瞬間に立ち会えたなぁと感謝である。
たまに、忘れたころに現れる『ハリーポッター』を読みたいという小さき人。テレビの地上波で映画が放送された後が多いけれど、原作が読みたいという中で聞かれることの多い作品。それだけメジャーな映像作品のひとつなのでしょう。1999年に第1作が日本語版で出版されてから25年。改めて驚きである。10年近く前に受講した児童サービスの講座で「『ハリーポッター』は、もはや古典作品。今の子どもたちはほぼ読みません」と講師に言われ、何ですって……と思ったものだけど、ちゃんと読み継がれる作品になっていることを実感できる。もちろん児童書で読み継がれているものは25年どころではなく、50年以上前なんていうのもたくさんある。版を重ね、読みやすいフォントに変わったり、訳者が変わったり、カバー画が変わったりと、時代に合わせて変わっているものもあれば、絶対に内容は面白いのに、このフォントや文字サイズでは今の子にはと難しいなあというシリーズもあったりする。
『ハリーポッター』のシリーズ、ハードカバーの方がルビが多い、っていうことは利用者さんに教えてもらった。当時小学1年生のお子さんに読み聞かせをしてシリーズを読破されたお母さんが、好んでハードカバーの方を予約されていた。今回調べてみると、総ルビのものがペガサス文庫版という形態で出版されていることがわかったので、早速購入することに。Sくんはどっちを読んでくれるかな、案外、このままハードカバーで読み続けたいっていうかな、楽しみ楽しみ。
似たようなお話、大人の場合。
森鷗外の次女・小堀杏奴の『晩年の父』をお探しの女性。残念ながら勤務館には所蔵がなく、市内の他の地区館からの取り寄せになったのだけど、それでも、1970年代発行の文学全集に収録されているものしかなかった。後日、届いた本の中身を確認すると、二段組の小さな文字!! がっかりしてお渡しするも、「読めるから大丈夫よ。この作品を読めることが嬉しいわ」と仰って借りていかれた。
この作品自体は文庫本や大活字本でも発行されているが、残念ながら大活字本は絶版で購入することができない。このような作品の読者の多くは、文字が大きいほうがいいにきまっている。残念でしかたない。
最近、どんどん目が悪くなっている私にとっても、小さな活字の本は読書が楽しく進まない。老眼鏡をあつらえる日も近いかな。切実な問題である。(石)
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