夏休みが終わり、暑い暑いといっていた季節も少しずつ変化している。大忙しだった夏休み中の図書館。イベントの開催もあるし、調べものなど問い合わせも多い。貸出や返却も多くなるので、単純にやることが増える。
4年ぶりの制限のない夏休みということで勤務する図書館でも、ここ数年の人出と比べると格段に来館者が多かったように感じる。酷暑のせいもあって図書館に避暑に来ているひとも見られたし、お盆期間の前後は帰省中で故郷の図書館にきたというひともいた。おばあちゃんと一緒に何度か来館してくれた姉弟は、本が大好きでいつも図書館に行っているけれど、横手のおばあちゃんの家の近くにも図書館があって嬉しいと話してくれた。
お盆にはお父さんお母さんと一緒に来てくれて、翌日には福岡に帰るのだという。この夏の楽しかった記憶の中に図書館のことがほんの少しでも刻まれているといいなと思う。
私の祖父母の家は父方も母方も車で10分程度しか離れておらず、子どもの頃に夏休みにはおじいちゃん家やおばあちゃん家に行く!と、取り立てて行くようなことをしたことがない。近いので祖父母の家に泊まるということもなかった。それでも夏休みになると東京や埼玉からやってくる従姉弟たちに会うために家族で出かけて行く。大人たちは食べたり飲んだりおしゃべりしたり。子どもたちはそこら辺の草っぱらをかけまわったり畑で野菜をとったり、日が暮れると花火をして遊んだり叔母のつくってくれるご馳走を食べたり。一日が楽しくてあっという間に過ぎた。けれど、夜になると私たちの家族だけがさよならをしなくてはいけないことは、いつも少しだけ寂しかったものだ。
家に着いて暗く蒸し暑い廊下を歩くと足の裏がぐにゃりとする。硬いはずの床がぶよぶよになったような、そのまま床を突き抜け沈んでしまいそうな、あれはどうしてだったんだろう。楽しく夜を過ごしているであろう従姉弟たちを羨む気持ちと、廊下で感じる不可思議な感触がごちゃ混ぜになって夏の記憶として刻まれている。
ここ数年、市内の多くの学校で夏休み期間中に親子で同じ本を読んで感想を書き合う「親子読書」という宿題が出ている。どんな本を読んだらいいですかねと保護者らしき大人に聞かれるときは、たいてい「親子読書」の本を探している。そんなときに私がおすすめする本のひとつが『鳥海山の空の上から』(三輪裕子/作・小峰書店)だ。小学6年生の翔太が、夏休みの数日間をおじいちゃんの故郷である秋田県矢島町で過ごした物語。そこに暮らす人々との交流が都会っ子の翔太を成長させていく。書名にもある「鳥海山」は秋田県と山形県にまたがる標高2000mを超える山で、私が暮らす場所からも美しいシルエットを見ることができる。そのことは同時に、いつも私たちを見守ってくれているのだとも言える。「山は、しずかにそこにある」文中の言葉が胸に響く。
静けさが戻ってきた館内は空調の音がやけに大きく聞こえる。窓の外には少し高くなった青空がくっきり見える。今日もまた、図書館であなたをお待ちしています。(石)
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