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タイトル 本の風

第29回 「この世で一番好きなのは」

 本に囲まれて仕事をすることがこんなに幸せだったとは。3年ぶりに司書として働くようになってつくづく感じる。家に本が山ほどあって、ボランティアで絵本の読みきかせに毎月行っていても、それだけでは満たされないものがあったようだ。

 1日2回の休み時間に、子どもたちは学校図書館である図書室にやってくる。雨の日は特に忙しい。外遊びができないため、常連以外の子もやってくるからだ。20分以内に読みたい本を借りて、教室に戻って席についていなければいけないミッションなので、みんな真剣勝負である。優秀な図書委員が、てきぱきと交通整理をし、1台のパソコンで貸出と返却をしっかりやってくれるので、こちらは本を探したり、質問に答えたりとフロアワークに専念することができる。図書委員になって日が浅いにも関わらず、完璧なチームワークで当番の仕事をこなす子どもたちに助けられながら、日々乗り切っている。

 この状況にそっくりの絵本があった。『からすのパンやさん』(かこさとし/著 偕成社)は、貧乏子だくさんのからすが営むパンやに、ある日こどもの友達の子ガラスがお客としておおぜいやってくる。普段どおり接客していると、「もっと早くして」「パンも安くして」「お店もきれいにして」「種類も増やしてほしい」など、次から次に注文を言ってくる。まじめで働き者のパンやさんは「もうしわけありません。」「どうもありがとうございました。」と誠実に対応する。お客が帰ると、店をきれいにし、家族みんなで考えて84種類ものパンを作る。翌日には、すてきにおもしろいパンがあるらしい、とうわさが広がり子どもから大人までたくさんのカラスが飛んできて、てんてこ舞いするほど繁盛する店になる、というお話だ。

 かこさとしさんの本は、子どもを知り尽くしていることはもちろん、愛情がどれも半端ではない。定番人気の絵本『だるまちゃんとてんぐちゃん』も、そこまでするかというくらいお父さんは、だるまちゃんの要求にとことんつきあう。だるまちゃんは満足すると、友だちと遊びに外にでかけていく。理想的な親子間の愛着関係と、遊びの大切さが描かれていて、さすが長いこと子ども会の活動で経験を積んできた人だなあ、と感心する。

 普段マンガしか読まない下の子も『からすのパンやさん』が大好きだ。図工の時間に紙粘土で物語の世界を再現するから、と張り切って絵本を持っていったが、なぜかパンはひとつも作らずに、カラスの家族だけを作っていた。私には思いつかない発想である。
 近頃の彼女は学校から貸与されたタブレットを使いこなし、検索で調べた科学遊びを、誰もいない時を見計らってやっているようだ。こちらが遅くなって帰ってくると、台所が真っ白で片栗粉の袋が空っぽになっていたり、洗面所を締め切って延々とドライヤーでなにかを温めていたりする。
 寝る前に慌てて宿題をやっつけている様子をみていると、小学生も毎日大変そうだが、どうか好きなことを見つけて楽しく生きていってほしい、と願うばかりだ。(真)

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