本のにおい、本屋さんのにおい、図書館のにおい。一冊一冊は紙とインクから漂う成分の何かなのだと思うけれど、本が集まったときに醸しだされるもの、そして本が様々な人の手を介することで複雑になっていくのが図書館の独特のにおいなのかなと思います。自分が働いている図書館は毎日過ごしている場所なのでどんなにおいがしているのかわからなくなっているけれども、初めて利用する方はきっと何か感じるでしょう。不愉快に思われていないといいなと願います。
図書館で返却された本が困惑するくらい匂うことは、わりとよくあることです。紙は水にも弱いけどにおいにも弱い。本を利用した人の様々なにおいを吸収しているのだなと感じています。煙草のにおいは強烈で、紫煙をくゆらせ活字を読むのが楽しみなのだろうとは思うけど、これはみんなの本なのだよ……と残念な気持ちになります。他にも、過剰な柔軟剤のにおい、梅雨時のなんとなく湿ったにおい、冬になると石油ストーブのにおい、強烈な燻製のにおいがついた本は、いぶりがっこでも作っている場所に置いたのか?! と疑うほどです。
次に利用される方が不快な思いをされないように、においの除去をしたいのですが、これがなかなか難しい。風に当ててにおいを飛ばすのが手っ取り早く、風のあるカラリと晴れた日には、外に本を出して広げるだけで効果があります。でもそんなお天気の日はなかなかなく、事務室で扇風機を回すわけにもいかず……ということで蓋付きの箱に匂う本と一緒に市販の消臭剤を入れて一週間程度放置する、といった方法をとっています。箱が次々と満杯になることもあって、においとの格闘は続きます。
“本とにおい”と言えば先日、素敵な出会いがありました。私が暮らすとなり街に新しい本屋さんを発見。月に一度通るか通らないかくらいの道で、暖色のライトが灯った小さな入口が目の端に映りました。そのどこかに“BOOK”の文字が見えたような気がして、車をグイーンとUターンさせ、路肩に車を停めてお店を眺めると、やはり本屋さんです。ショーウインドウに飾られていた本の中に発売されたばかりの詩人谷川俊太郎と画家junaidaの絵本『ここはおうち』がありました。ウキウキしながら駐車場を探し、お店に入ったのは閉店時間の少し前でした。落ち着いたインテリアで整えられた店内はこじんまりとしていて、並ぶ本はどれも吟味されセレクトされたことが伝わってきます。店内に広がるアロマの香りが一層居心地のよさを引き立てていました。店主らしき人に尋ねると「本とアロマのお店」とのこと。どの棚にも読みたい本があるとか、いい香りで素敵とか、感激した勢いで一方的に感想を伝えてしまったにも関わらず、閉店時間の迫るなか、その可愛らしい店主さんはニコニコと聞いてくれました。図書館にもアロマの香りを館内に漂わせるディフューザーなどを導入しているところがあるそうです。
『かぐかぐ』(カムカムズ/文、ささめやゆき/絵、PHP研究所)という絵本があります。かぐかぐやひめ、という女の子が身の回りのもののにおいを嗅いでいくお話。空気はどんなにおい?美味しいにおいは何のごちそうかな? くさいにおいは危険を知らせてくれる。においがなかったらどうなる? たくさんかぐかぐしていくと、においは記憶となっていくことを伝えてくれます。あなたの幸せな思い出はどんなにおいと一緒によみがえるでしょうか。かぐかぐやひめと一緒に鼻をクンクンさせて読んでみてください。(石)
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