3月ともなると日々の暮らしの中で春の訪れを感じることが増えてきます。通勤時、田んぼ道の左右に広がる一面の雪景色が、日ごとに高さを減らしている様子や背中にカイロを貼らなくても過ごせるようになるとか、暖かさから感じる要素が多いことが、雪国の特徴でしょうか。また、3月は卒業シーズンでもあります。明治31年創立の歴史をもつ、地域の県立高校の卒業式は3月1日と決まっています。毎日毎日、図書館の机で勉強をしていた高校生の姿がひとりふたりと減ってくると、寂しさも感じつつ、後ろ姿にそっとエールを送る日々です。
冬の日の晴れ間に、素敵なトートバッグをお持ちの白髪のおじ様がカウンターにいらっしゃいました。貸出手続きを終えた本を入れるために取り出したバッグでした。紺色の地に白抜きで県立高校の名前がプリントされていました。「カッコいいトートバッグですね!」と声をかけると「でしょうでしょう、創立120周年の記念品だったんですよ」と同窓生としての誇りを感じる笑顔でお話されていました。
本を入れるために図書館に持参するバッグは人それぞれ様々で、その人っぽさが見えたり見えなかったりで、観察し甲斐があるというものです。キャンバス地やナイロン製のエコバッグが多いでしょうか。
お店のショッピングバッグも見かけます。羊羹で有名なお店や携帯電話会社、化粧品メーカーの紙バッグは丈夫そうです。バッグを目印にして、心の中で「今日もありがとうございますね、とらさん」などと記憶していた方が、プレミアムな缶ビールの紙バッグに変わっていたりすると、少し慌てます……。子どもたちはキルティング地のハンドメイドバッグが多いかも。風呂敷包から本を取り出すマダムは、いつも丁寧にお礼を伝えてくださいます。スーパーに持参するような買い物かごを図書館利用に使う方がいるのは車利用が多い地域だからですね。かご持参の方はわりと多いです。
東京都の中央区立図書館と書かれたバッグをお持ちになられた方には思わず声をかけてしまいました。正真正銘の図書館バッグです。お子さんの誕生時に図書カードをつくってプレゼントされたようなことを話しておられました。オリジナルの図書館バッグ、憧れます。利用者へのプレゼントではなくても、かっこいいデザインのものを商品化して図書館グッズとして販売しているところは全国にいくつもあります。お土産にもなるし、とても素敵でついつい購入してしまいます。そうして増えていくエコバッグという名のエコではないマイバッグ。
随分前になりますが、木の蔓で編まれた籠を下げて来館されるご婦人がいっらしゃいました。3冊くらいの単行本を籠から出して返却し、また次に借りた3冊を入れてゆっくりと帰っていかれる、そんな方でした。素敵な籠ですねと声をかけたときに「ずっと若いころから使っているのよ」といって見せてくれたことを思い出します。その時の籠がどこかで買われたものか、贈り物だったかは聞かずじまいですが、長く愛用されていた籠には物語が詰まって見えました。
秋田県横手市には素晴らしい籠の作り手がいらっしゃいます。金沢地区に住む中川原信一さん。今回はその中川原さんの本を紹介します。
『中川原信一のあけび籠』堀惠栄子/文:白井亮/写真:文藝春秋。出版は2019年。東京で手仕事を紹介するギャラリーを営む方が中川原さんの籠に魅せられ、本にしたいと考え、クラウドファンディングを利用し取材などの予算がまかなわれ出版されました。
フォトブックともいえる内容で、中川原さんが編む美しい編み目のあけび籠を堪能できます。材料のアケビの蔓は山から採取し洗って水に漬け、柔らかくして乾燥させ、一本一本準備します。材料を用意するところから籠を編むまでの全工程をひとりで手がけるという手仕事に感嘆するばかり。中川原さんが過ごす横手の自然が美しく紹介されていることも地元民として嬉しいことです。
この本は横手市立図書館では、地域資料のコーナーに置かれています。地域を知る一冊としてたくさんの人に見ていただきたいです。今日もまた、図書館であなたをお待ちしています。(石)
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