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タイトル 本の風

第23回 「だってだってのおばさん」 

 私の心の師匠である佐野さんは、ドラマ「冬のソナタ」から韓流にはまって、DVDを箱ごと買って観続けて、撮影地にもいろいろ行ったそうである。恋愛は無理でも誰かを好きになることは、心の安定として「ああいうのに熱中できる状態がいちばんいいね。」と言っている。(『佐野洋子対談集人生のきほん』佐野洋子/西原理恵子/リリー・フランキー/著 講談社)
 さすが先輩、よくわかっていらっしゃる。それなら私も、と最近出会ってしまったアイドルに惜しみなく時間とお金をささげることにする。オーディション番組の動画を何度も見ているうちに、宝塚好きの上の娘まで一緒に応援するようになりコンサートもすでに3回観てきた。デビュー前なので会場は埋まるのかと心配しながら行ってみると、そこには幅広い年齢層の、心は乙女の仲間がたくさんいた。グッズを買うための行列には並ばなかったものの、運よくお見送り(というものが、アイドルのイベントにはある)をしてもらえたので、至近距離でそれはそれは美しい彼らに手を振ってもらった。高校生の娘はしっかりファンサービスをしてもらったので、またしばらく恋に恋する状態が続きそうであるが、自分も似たようなものだから、母子でしばらく浮かれて生きていけそうである。

 『だってだってのおばあさん』(佐野洋子/著 フレーベル館)は小学1年生の国語の教科書に載っている名作だが、これは今の私のためにあるような絵本だ。いつもインドアの「だってわたしは98だもの」が口癖のおばあさんが、ひょんなことから5歳の誕生日を迎えることになって、同じ5歳の飼い猫と一緒に元気に外の世界にでかけていく。たくさん歩いて、飛んで、川にも入る。お話の中でおばあさんはしわが減ったり洋服が変わったりするわけではない。けれども心が5歳になっただけで表情は明るく、なんでもやってみることにきめたおばあさんを見ると、もうすぐ50歳か、と弱気になりそうになる自分に「なにを言っているの、気持ちしだいでしょ」と佐野さんが言ってくれているような気がするのである。

 「推し」のおかげで、私もSNSをずいぶん使えるようになった。ついでに昔取った杵柄で、司書時代に培ったレファレンスサービス(参考調査)能力を駆使し、推しがインスタグラムやツイッターなどで挙げてくれるホテルや食事、買い物の写真から場所の検討もつくようになった。時間を忘れて調べているうちに、昔探偵になりたかったことを思い出した。あの頃は7つ道具が必要でカメラやレコーダー、手帳に地図などいろいろ必要だったが、今はスマホ一つで間に合ってしまうのだから、時代は変わったとしみじみ思う。

 長生きしたなと自分を褒めつつ、せっかく調べたので衝動的に旅行の手配をしてしまった。行先は北海道。今冬は寒いらしいが、浮かれているので気にしない。彼らの足跡をたどる聖地巡りをしてこよう。今のわたしの精神年齢はきっと18歳くらいで、娘と同い年のはずだ。(真)

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