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タイトル 本の風

第19回 「昭和の人」

 好きな作家はたくさんいるが、プロマイドまで部屋に飾っているのは松本清張氏ただ一人である。2022年は没後30年記念ということでテレビ番組でも特集をしたり、新たに本も出版されていてうれしいことこの上ない。

 『松本清張推理評論集1957-1988』(松本清張/著 中央公論新社)は、単行本や全集にはこれまで未収録だったものが収められている。予約して発売日に手に入れた。カバーは淡い灰色で白地のタイトルが日本語と英語表記されていて、背広を着た清張さんが顔を横に向けている。このままポスターにしてほしいくらいかっこいい。表紙も映画のオープニングを思わせるデザインで、このセンスのいい装丁をしたのはと、チェックすると細野綾子氏の名前があった。これから出る本も見逃さないようSNSのお気に入り登録をする。

 いざ読み進める。新たに出会う清張さんの文章に触れる至福の時間だ。インタビューや講演の清張節も冴えわたっている。暇つぶしにはいつでもやめられるパチンコがいい、読書は疲れた時、息抜きしたいときに読むと面白い、書庫に1万5千冊くらいあるが、小説はつまらないから1冊もない、悪妻を持つほうがいい作家になれるなどなど。また、若い人についてどう思うかと聞かれ、案外しっかりしているが、本をあまり読まなくなったのは困る、学校を出たらそれっきりで、社会にでたら要領のいいところに身が染まっている。非常に社交はうまいが、利己的な人間になっていく気がしている、と今の日本を見透かしているような回答だ。ほかにも、好きな自作はやっぱり『点と線』で次が『ゼロの焦点』。短編は好きなものが多く『張込み』『顔』『地方紙を買う女』『鬼畜』等。清張ファンである限り、『随筆黒い手帖』(松本清張/著 中公文庫)と併せてこれからも何度も読むことになりそうだ。

 福岡県の小倉にある『松本清張記念館』には3年前に行った。その時は雨が降っていて館内は自分ひとりだけの貸切状態だったので、これ幸いと半日過ごした。書斎や書庫の再現に、たくさんの原稿や絵、写真に映像資料も展示されていて、目がいくらあっても足りないくらいだった。図録や付箋、ポストカードなどグッズもたくさん買った。記念館のキーホルダーは、その日から毎日使っている。

 また今度訪れる前に決めていることがある。小倉まで鉄道で行く。読めていない作品を読んでおくことはもちろん、映像作品も抑えておく。1957年の野村芳太郎監督の『顔』から順番に観ていけるようにケーブルテレビの有料チャンネルにも加入した。今はインターネットのおかげで、簡単に情報を集めることができ、動画も簡単に見ることができていい時代になった。

 しかし、本は紙でなければだめだ。部屋が本だらけになってもここは譲れない。こういうことを言うと、子どもたちには「でた、昭和(生まれ)」と笑われてしまう。まあ事実だから仕方がない。胸を張って昭和の人であり続けることにしよう。(真)

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