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タイトル 本の風

第17回 「ここで生きていく」

 「居場所づくり」という言葉があるが、私にとって必要な居場所は一人になれる場所だ。行きつけの場所がいくつかあって、そこでは誰とも知り合いにならないように気を付けている。子どものころの秘密基地のような使いかたをしたいので私がいつ、そこで何をしているか、家族も知らない。

 『年年歳歳』(ファン・ジョンウン/著 斎藤真理子/訳 河出書房新社)は誰かの日記を覗いてしまったような本だ。できることならずっと隠しておきたい感情や出来事が、母イ・スンイルとふたりの娘ハン・ヨンジン、ハン・セジンの視点で順に語られる。家族でも、同性同士であってもそれぞれの思いがあって、一緒に暮らしていても到底わかりあえない、どうしようもないことはどこの国でも同じだ。

 家族に期待しすぎてはいけない、ということがわかるまで自分はずいぶんかかった。が、歳をとって前ほどの元気もなくなり、いろいろあきらめて言葉を封印したら、家の中は平和になった。それでよし、とかたをつけたつもりでいたことが、ここではたくさん書かれていたのでびっくりして、読み進めるのに時間がかかってしまった。また、抱えているつらさの原因である家事、育児、仕事にまつわる女性ならではの3人分の悩みを自分もわかってしまうことに、いまさらながらに驚いた。とはいえ、母イ・スンイルの朝鮮戦争を生き抜いた歴史はあまりにも過酷で、こんなことはあってはならないのに、と思うことしかできない。

 小説を読んだ後に、こんなに「私もここまでがんばって生きてきたのだ」と自分をいたわり、家族のことを振り返るのはめったにない。母が亡くなる前に、飛行機で北九州までみんなで墓参りに行ったことや、二人だけの時に教えてくれた女同士だからこその話。父とその後、二人で韓国旅行に行ったときに聞かせてもらった父方の家族の話や、母とのあれこれ。今より時間に追われていたはずだが、私もできるかぎり、両親と関わっていたことを思い出すことができた。いつも叱られてばかりだと思っていたが、ちゃんとかわいがってもらっていた。私は幸せな子どもだった。

 ファン・ジョンウン氏の小説は他にもあと4冊翻訳されているが、どの登場人物もその後が気になってしまう。ギリギリのところで、その場所で精いっぱい生きている人たちが多いせいだ。性別も年齢も国籍も関係なく、心配しながら応援しつつ、自分も今いる場所で、人生をやれるとこまでがんばろうと前向きな気持にしてくれる。親孝行もまだまだできていないし、やることは山積みである。(真)

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