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タイトル 本の風

第16回 「おなかがぺっこぺこ」

 おやおや、今日も児童スペースの奥からお歌が聞こえます。
♪それでも あおむし は おなが が ぺっこぺこ♪
♪チョコレートケーキ と アイスクリーム と ピクルス と チーズ と サラミ と ぺろぺろキャンディ と さくらんぼパイ と ソーセージ と カップケーキ と それから すいか♪

 図書館に来るときまってSくんは大型絵本の棚から背丈ほどもある『はらぺこあおむし』(エリック・カールさく/偕成社)を取り出し床に広げ、ペタンと座ります。一枚一枚大きなページをめくる様子をそっと眺めていると、楽しそうな歌声が聞こえてきました。はじめはSくんが自由に節をつけて歌っているのかしらと思っていたのですが、一緒にいたお母さんも妹のYちゃんをあやしながら小さな声で歌っています。やっと歩き始めたYちゃんもお兄ちゃんの歌にあわせて「(ぺっこぺ)こーーー♪」「(チョコレートケーキ)とーーー♪」と可愛らしい合いの手をいれています。どうやら絵本のストーリーが歌になった知育教材があるようです。検索するとYouTubeなどもヒットしました。

 この絵本は、産まれたばかりの小さなあおむしが主人公。あおむしはお腹がすいていたのでりんごをひとつ食べます。それでもまだおなかはペこぺこです。翌日、なしを二つ食べました。次の日にはすももを三つ、というように次々に美味しいものを食べ続けたあおむしはどんどん大きく育って、さなぎになり、最後には美しい蝶になるお話です。
 果物が描かれたページでは、あおむしがむしゃむしゃと食べた跡に穴があいていて、指を入れたり、向こうを覗いたりして遊べる仕掛けになっています。また、色鮮やかに描かれた美味しいものがたくさん登場することも、ちょっとずつ大きくなっていくあおむしに子どもたちが共感できることも、この絵本の魅力的な要素の一つでしょう。
 更には、歌になって楽しめるとは!この絵本が世界中で愛されていることの片鱗をみたようでした。
 
 私事ですが、この春から勤務館が変わり、右往左往する日々を送っています。司書としての仕事に変わりはないので場所は問わないと思っていたのですが、地域性の違いがあったり、小さなお作法に違いがあったり、当然利用される市民の方は異なる訳で、なんとも言えない疲労が蓄積しているのを感じています。(同じ自治体での異動ですらこの有様ですから、遠く彼の地に転籍している司書の方々を心から尊敬するのでした。)
 それでも「異動すると、よりたくさんの市民の人たちと出会えるじゃないか!」と送り出してくれた元校長先生の言葉や、「今まで本を選んでくれてありがとう」とお手紙をくれた小さな男の子の笑顔を思い出して前を向いています。それでも気持ちが塞ぐ出来事が起こると「おなが が ぺっこぺこ♪」と歌うSくんの声を脳内再生しています。お腹が空いていると気持ちが後ろ向きになりがち。美味しいものでお腹を満たし、ご機嫌に過ごしたいと思っています。

 大好きな司書の先輩からバトンをうけ、こちらのコーナーで書かせていただくことになりました。東北の小さな図書館でくるくると過ごす日々を楽しく綴っていけたらいいなと思います。どうぞお付き合いください。(石)

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