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タイトル 本の風

第11回 「準備万端」

 自由に海外旅行に行ける日がまたやってきたら、どこに行って何をするか、もう決めている。韓国の済州島に行って、オルレを歩きたい。

 オルレは済州島の方言で「家の前庭から町の通りへと伸びていく小道」の意味で、済州島のトレッキングコースの総称でもある。2007年に初の1コースがつくられ、2012年に全26コースが完成した。総距離425キロのこの道がなぜできたのか。

 『オルレ 道をつなぐ』(ソ・ミョンスク/著 姜信子 牧野美加/訳 クオン社)を読めばわかる。著者のソ・ミョンソク氏は40代で仕事を辞め、医者のすすめもありウォーキングを始める。散歩の楽しさに目覚め、ついにはフランスからスペインへと続くサンティアゴ巡礼路800キロの道も歩いてしまう。旅の途中で出会ったイギリスの女性と、「自分の国に戻ったらそれぞれのカミーノ(巡礼路)を作ろう」と話したことがずっと頭から離れず、帰国後ソウルに戻ると夫とは別の道を行くことを決めて、故郷である済州島に戻り社団法人済州オルレを設立するのだ。

 道は自分の気に入ったところを、頼もしい女友達に歩いてもらいながら、手厳しくも愛のある意見を聞き、地元に詳しい弟たちと協力して整えられていく。オルレの原則は、機械に頼らず手作業で行う、必要な資材は地元の天然素材だけを使う、道幅は1メートル以下とすることの3つである。
 
 オルレの環境整備のために市長に手紙を書き、行政に協力を求め、ごみ拾いの活動を住民と一緒に進めていくところなどは記者や編集長の仕事をしていただけあり、社会を動かすことのできる人だなあと惚れ惚れする。

 オルレはその後、日本の九州と宮城にも広まりコースができている。道づくりの原則は変わらず、コースの趣旨が違う場合は却下にすることもあるという。政治的に日韓関係の悪化が問題になっているときも、オルレを歩く日本人、韓国人はその土地の人とも和やかに交流をして別れを惜しんでいたことも書かれていてほっとする。

 私がオルレを歩くときはマスクを外して、海や山を見て空気を思いきり吸って、匂いも楽しみながら気持ちよく歩きたい。そこで誰かに出会ったら目や口元を見て、当たり前に対話が楽しめるようになっていたい。その日が本当に待ち遠しい。今までも旅先で言葉が通じない時は、表情とジェスチャーと気合でなんとかしてきたのだ。翻訳機を使うのは最後の手段だ。

 今は、その来たるべき日のために大きいリュックサックも買ってあるし、いい靴も用意した。体力づくりも着々と進めている。こちらの準備は万端なのである。(真)

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