今年の夏休みは仕事を替えたおかげで、子どもたちとほぼ1か月朝から晩まで一緒に過ごすことができた。小学4年生の次女は絵を描くことが大好きで、いつも机に向かってなにかを描いている。まんがや図鑑以外の本をめったに手に取らず、新聞も4コマまんがだけを欠かさず読む。
勧めかたをしくじるとますます物語の本から遠ざかってしまうことがわかっているので、あえて司書の経験を封印していた。けれども、猛暑でなかなか外に遊びにも行けず、家で過ごす時間が多い中、長女(高校2年生)と私が図書館で借りてきた本を山積みにして読書三昧でいると、さすがに参加したくなったようだ。
姉の読んでいた『あなたも名探偵シリーズ』(杉山亮/著 偕成社)に手を出し、最新刊の22巻まで読破した。長女が夏休みに入ってすぐに久しぶりに図書館に行き、「ミルキー杉山、こんなに続いてた、懐かしい」と大喜びして、まとめて借りてきてくれたおかげである。姉の力は偉大だ。姉妹の探偵ブームはその後『少年探偵団』や『ホームズ』にはいかず、まんがの『名探偵コナン』に向かってしまったが、何度も繰り返し読んで楽しそうにしているので、まあよし、としている。
振り返って自分の子どもの頃の夏休みの本の思い出といえば、憎き読書感想文である。教育熱心だった母は、自分の大好きな頑張り屋の主人公がでてくる本を私にたくさん読ませた。『赤毛のアン』を皮切りに、ほぼ母の感想と言っていいものを提出しては、毎年賞状をもらっていた。今なら母の気持ちも理解できなくもないが、趣味でもない本を読ませられた恨みは深い。中学生から高校を卒業するくらいまで、私の反抗期は無駄に長かった。
『娘について』(キム・ヘジン/著 古川綾子/訳 亜紀書房)は、母と娘の葛藤をこれでもかと見せられる、ちょっと大変な本だ。どこの親子でもありそうな母が娘にもつ理想や期待と、娘が母にありのままを認めてもらいたい承認欲求のぶつかり合いなのだが、目の前で喧嘩がはじまってしまったかと錯覚するくらい臨場感がある。自分もこうやって母に逆らっていたこと、母も自分の考えを全開で押し付けてきていたこと、今だったらこうしたことも形を変えた愛情表現なのかもしれないと思えるようになったことなど、置かれた立場を変えながらぐるぐるとこの親子げんかに巻き込まれてしまう。介護の仕事をしながら、老いへの不安を感じる母と、非常勤の大学講師で性的マイノリティーでもある娘の苦しみ、あらゆる痛みを追体験することになりかねないので、心が元気な時に読まれたい。
母親であるということがどれだけ大変かという当たり前のことを思い出すと同時に、今は亡き母に感謝の気持ちを伝えたくなったので、近いうちに娘二人を連れてしばらく行っていなかった墓参りに、母の好きなビールと花を持って行こうと心に決めた。(真)
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