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タイトル 本の風

第5回 「いつかまた会いましょう」 

 高校の時の友達は一生ものだ。大好きだったEちゃんとはしょっちゅう喫茶店に寄り道して、音楽や本の話をよくした。小遣いだけではなにかと間に合わないので、1年生の夏休みから私は小さな書店でアルバイトを始めた。それなりに働いていたが、ツケで本が買える上に社割が利くものだから、買いすぎて、給料日がきてもほとんど手元に残らないこともあった。
 当時買った本で、今も残っている1冊が『江戸川乱歩傑作選』(江戸川乱歩/著 新潮社)だ。私は『屋根裏の散歩者』と『人間椅子』がお気に入りだったが、Eちゃんは『芋虫』が好きだとさらっと言ったので、衝撃を受けた覚えがある。中年になった今なら『芋虫』について語り合いたいことがたくさんあったのに、Eちゃんは23歳の若さで帰らぬ人となってしまった。

 T君は高校2年生のクラスメイトで、一度だけ席が隣になった。当時流行っていた任天堂のロールプレイングゲーム「ドラゴンクエスト」の話をよくしたものだ。T君の年の離れた弟は50円でレベルを1つ上げてくれることゲームの中で生きるなら戦士か魔法使いのどっちにするかなど、授業そっちのけで本当によく喋った。ラグビー部で背も高く、人当たりの良かった彼はクラスの人気者で、自習時間に彼の話が聞きたいと女子たちから要望がでれば、前に立ってスピーチをしたり、文化祭ではタロットカードで占いをして、それがまたよく当たると評判になって恋愛相談が殺到するなど、とにかく華のある人だった。

 いつかまた会いたいなあ、とのんきに構えていたら、1年前訃報を受け取った。そして最近、納骨の前に弔問させてもらうことができた。彼に会ったときはいつでも昔のように会話のはずむ面白い大人になっていようと思っていたのに、語りかけるだけの再会となってしまったことが只々悲しい。

 今読むのは危険だとわかっていながらも、『ショウコの微笑』(チェ・ウニョン/著 牧野美加・横本麻矢・小林由紀/訳 クオン刊)をしばらく持ち歩いていた。なかなか覚悟がいる短編集で、精神状態のいい時を狙って読んだ‥…つもりだった。カウンセリングを受けるような気持ちで。しかし、というか案の定ショック療法のようになってしまい、読後は茫然自失の日々で大変だった。

 一体この本のどこが私をここまで揺さぶってくるのかわからないが、今回は7編のうち『ハンジとヨンジュ』が心に刺さった。フランスの修道院に長期滞在することになった韓国人女性のヨンジュとケニア人の青年ハンジの、数か月間の話である。母国語ではない英語を使ってコミュニケーションを取り合い、心が通じた時もあったはずなのに、原因がわからないままお互いにすれ違ってしまったことを修正することができないまま、彼が去った後のヨンジュの悲しみに呑まれてしまった。自分はハンジに対して何かできることがあったのではという後悔に共鳴してしまった。けれども私はこれからも、何度もこの話を読んでしまうだろう。T君を思い出しながら。(真)

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