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タイトル Hidden Library,Invisible Librarian

18. もりのなか

もりのなか 表紙
『もりのなか』
マリー・ホール・エッツ 文・絵,
まさきるりこ 訳,
福音館書店,1963

 皆様こんにちは。今年の夏も暑かったですね~。そんな暑さを吹き飛ばすようなオリンピックは、とてもドラマティックでした。新型コロナウイルス感染症のため、開催が延期となった東京オリンピックから3年。アスリートたちの真剣なまなざしと躍動感、歓喜の涙、くやし涙、いろいろな場面にすっかり魅了されてしまいました。パリが会場ということで、リアルタイムの放送は、日本時間では深夜になってしまい、なかなか観戦できませんが、インターネット配信がある今は、自分の好きなタイミングで観戦できるというのはとてもありがたいですね。
 私は、バスケットボールやバレーボールなどの室内球技や体操などをいつも楽しみにしているのですが、東京オリンピックから正式種目になったスケートボードが大好きです。ほかの種目よりも若い世代のオリンピアンたちの一瞬にかける緊張感や興奮を感じることができます。何より、ほかの競技ではあまり見る機会がない、ほかのチームの選手たちに声をかけあい、交流をしている姿が、とても素敵だなと思っています。皆さんはオリンピック、どの競技を楽しまれましたか?

 さて、9月とは言え、まだまだ残暑が厳しい今日この頃ですが、ちょっと森まで行ってみませんか?
 1冊目に紹介するのは『もりのなか』(※1)です。森をテーマにした絵本といえばこれ、といえるような、代表的な1冊です。主人公の男の子がラッパをもって森へ散歩にいくと、いろいろな動物たちに出会い、散歩の仲間が増えていく、楽しい気持ちになれる絵本です。
 この本で思い出すエピソードがあります。ある男性の利用者さんが来館されました。
 「『もりのなか』という本はありますか?」と問われ、この本をお出ししました。本を開くと、少し怪訝そうなお顔になっています。
 「この本のカラー版を見たいのですが。」
 さて、今度はこちらが思案する番です。『もりのなか』は全体を通してモノクロの絵本です。カラー版の出版という情報もありません。
 「どちらでカラー版の情報をお知りになったのでしょうか?」
 「子どもの時に読んでもらって、大好きだったんですよ。」とのこと。
カラー版がないことをお伝えするとともに、もしかしたらこの方は、モノクロの絵本を自ら色鮮やかにイメージし、そのまま記憶されていたんじゃないだろうかと思い至りました。
 書店や図書館でも、イラストが目立つ絵本やカラフルな絵本がたくさん並んでいますが、こんな素敵なエピソードがある、一見地味なこの本をぜひ手に取ってもらえたらうれしいなと思っています。

 二冊目は、『おおきな木のおはなし』(※2)です。この本は、1本の大きな木の一生を描いています。たくさんの動物たちとの関わり、四季の移り変わりなど、楽しいことも、大変だったことも、大きな木が過ごした長い年月が、かわいらしいイラストで描かれています。風木一人さんの語りかけるような、やさしい文章で、命がめぐっていくことを伝えてくれます。
 木はその場で動くことはできないのですが、木に集まる動物たちの力によって新しい芽吹きを迎えます。私たちは自ら行動を決めることができます。私たちの命をどうつないでいくのか、命のありがたさを感じる1冊です。

 三冊目に選んだのは、『ひみつのもり』(※3)です。この絵本の森は森でも、海の中が舞台です。海の中で何かにひっかかり取れなくなったかごを引き上げるため、ベンは友達のソフィーと一緒に海に潜ることにします。なんとなく不気味な様子を感じるベンですが、水中めがね越しに見えたのは、海の中の不思議な森でした。
 作者のジーニー・ベイカーさんは自分自身で海に潜り、自然の素材を使用して絵本を作ったそうです(巻末さくまゆみこさんの文章より)。その立体感が、まるで自分が海に潜っているかのような気持ちになり、この絵本の美しい色味と海の持つ不思議さを一層際立ててくれているように感じられます。

 勇気を出して、一つ経験すると、たくさんの発見があります。木に登る、海に潜る、など、自然と触れ合う機会は、子どもたちにとっては、大冒険に違いありません。もちろん自然だけではありません。新しいことに挑戦する、ということが、大きな経験値を獲得するように思っています。
 とかく大人になると、頭でっかちになって、やってみる前から「まあいいか」とやらない選択をすることも増えてしまうように感じます。でも、そんなのもったいないですよね。いつまでも発見と驚きを経験できる気持ちでいたいと思っています。


  • ※1『もりのなか』,
    マリー・ホール・エッツ 文・絵,まさきるりこ 訳,
    福音館書店,1963
  • ※2『おおきな木のおはなし』,
    メアリ・ニューウェル・デパルマ 作・絵,風木一人 訳,
    ひさかたチャイルド,2012
  • ※3『ひみつのもり』,
    ジーニー・ベイカー 作,さくまゆみこ 訳,
    光村教育図書,2006

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