みなさん、こんにちは。新年度が始まり、ひと月ほどが過ぎました。たくさんの「はじめて」と「はじめまして」とが、ふわりふわりと漂い、緊張感と初々しさがほほえましくもあります。今回紹介する絵本は『とん ことり』(※1)です。
この絵本が最初に出版されたのが1986年です。私はすでに中学生でしたので、この本を知ったのは司書になってからでした。林明子さんの柔らかく優しい色使いと、キャラクターの豊かな表情がたまらなく、すぐに大好きになったことは言うまでもありません。そして、筒井頼子さんのストーリーが、まさに「はじめて」と「はじめまして」です。引っ越してきたばかりの「かなえ」が、「とんことり」という音を聞きつけます。ポストの中には「すみれのはなたば」。誰が入れてくれたんだろう、そんな少し謎解きのような始まりです。どんどん「かなえ」は「だれか」に近づいていきます。ドキドキワクワクしながら、「かなえ」と一緒に出会いの喜びを感じられる1冊です。そして、この「だれか」は、ちゃんと本の初めの方から登場しています。
もう1冊「はじめて」の絵本を紹介します。同じく筒井頼子さん、林明子さんのコンビで描かれた『はじめてのおつかい』(※2)です。実はこの絵本、はじめて林明子さんが『こどものとも』で描いた作品です。こちらも「はじめて」に挑戦する「みいちゃん」の姿が、ほほえましい絵本です。初めてづくしのこの絵本の背景は『絵本作家のアトリエ 3』(※3)で語られています。
人づきあいに悩んだ小学生のころから、私の友だちは本だったといっても過言ではありません。私が「かなえ」くらいのときには、友だちになる、ということがとてもハードルの高いことだったんです。今の私を知る人からは笑われそうですが、最初の一歩がどうしても踏み出せない。ショッピングセンターなどでクラスメイトに会っても、もじもじしていて、「あいさつすればいいのに」と、よく母に注意されました。「人見知り」という言葉を知ってからはそれをヨロイにしていました。
そんな私の“基地”は小学校の図書室でした。図書室はとても小さくて、古い本が多かったけれど、その部屋に来るのは、ほんの何人か。学校で窮屈に感じていた思いを、少しゆるめることのできる場所でした。前出の『絵本作家のアトリエ 3』の中で、林明子さんは<子どものころは、「引っ込み思案でのろくて、いつもぼうっとしている」本の虫だった。おやつの時間も忘れるほど夢中で読み、空想にふけった。>とありました。そんな林さんにも親近感を覚えます。
中学生になり、マンモス校だった母校の図書室はとても巨大に感じました。部活を始めて、友だちが増えた私でしたが、やはり居場所に選んだのは図書室でした。静かな環境で、本が好きな人が集まり、時間を過ごすことのできる安心感がたまらなく好きだったこともあり、3年間図書委員をしたのもいい思い出です。これが今の仕事につながっているきっかけかもしれません。
大人になっても新しい環境、新しい人との出会いは緊張するものです。特に、相手がいることならなおさらです。今はインターネットが当たり前で、リアルで会うよりもSNSで繫がって簡単に連絡を取ることができます。「対面してドキドキしちゃって、何も言えなくなっちゃう」、「嫌われちゃったらどうしよう」なんて人でも、自分が勇気を出してみたら、案外友だちになるって簡単な時代になったのかもしれません。その一方で、人との距離感をつかみづらいようにも感じます。リアルとバーチャルのいいところを上手に使っていけるよう、図書館では、本や職員の声掛けなどで応援したいなあと思っています。
図書館は、一人でも大勢でも楽しむことができます。友だちと楽しそうに来館する子どもたちもいれば、一人でのんびり過ごす子もいます。私自身、図書館と図書館の本に救われ、育ててもらったという気持ちで、今図書館で働いています。1冊の本、図書館員との会話が、だれかの背中をそっと押してあげられたら、こんな幸せなことはありません。
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筒井 頼子 作, 林 明子 絵
福音館書店, 1986