はじめまして。小さな図書館で働く絵本専門士、豊山希巳江と申します。これから連載をさせていただくことになりました。この連載では絵本を1冊選んで、その本からいろんな話題を広げてきます。リラックスして読んでいただけたらうれしいです。
さて、突然ですが、「今日、あなたは空を見上げましたか。」今日はどんな空だったろう、改めて思い出そうと思っても思い出せない方も多いかもしれません。ハッとさせられるこの質問から始まる絵本が『最初の質問』(※1)です。
この絵本は、長田弘さんの穏やかな「質問」を重ねた詩と、いせひでこさんのやさしいタッチで描かれた絵で構成されています。この重ねられた質問はとても穏やかでありながら、読み手の人生を振り返るようなものでもあります。手にした年齢や環境によって、抱く思いが大きく変わることもあるかもしれません。ページを繰るごとに少しずつ立ち止まり、自分の心と対話する、豊かな時間を味わえることでしょう。また、時に自分にとって重く苦しい質問であっても、各ページに描かれた絵が、その質問のイメージを膨らませ、読み手に優しく寄り添ってくれると感じられる、そんな絵本です。
「自分のこと」を自分一人で考えていくことはとても簡単なようでいて、難しいです。わかっているようで意外と曖昧かもしれません。私自身も、自分自身がどうありたいのか、何をめざしているのか、など明確な言葉で表現することが難しいと感じていました。そこで活躍するのが「質問」です。質問って、なんとなく答えたくなりませんか?質問に答えていくうちに、ああ、私はこういうことを考えていたんだ、と自ら気づく場面があらわれてきます。そして、質問していた側も、改めて考えるきっかけとなります。
図書館の現場でも質問が多く寄せられます。いただいた質問をレファレンスとして受け付け、お探しの本や情報をお渡しできるように質問を重ねます。時には直球ドストレートの質問であることもありますが、基本は変化球。「知りたいこと」の核心を見つけるために、私たち図書館員はインタビュー(質問)をする、というわけです。
ある日、一人の小学生Aさんが図書館カウンターに来ました。最初の質問は「生き物の本はどこにありますか?」でした。私は、図書館の生き物のコーナーを思い浮かべます。ですが、生き物は注意が必要な分野でもあります。公共図書館の多くが採用している『日本十進分類法』で行くと、生き物の生態や種類などを調べる本と飼育するための本は別のものであるからです。多くの図書館はその分類番号の順に本が並んでいるので、分野が違うと本の置いてある場所も変わります。そこで質問です。
私「どんな生き物について調べているの?」
A「竜!」
おお、予想もしていない答えが返ってくるではないですか!そうか、竜の本が見たいときにも生き物って言うんだな、と心にメモメモ。いたって冷静な顔で、「教科書に『エルマーとりゅう』(※2)が載っていたのかしら。だとしたら、竜の出てくる読みものを探しているのかな」などと頭の中はフル回転。
私「どうして竜の本を探そうと思ったのかな?」
A「宿題が出ていて、竜の本を探さないといけないんだ。」
私「(宿題か……)何の授業の宿題か聞いてもいい?」
A「図工!」
おっと!ここまで来て、今までの想像が全く違うことがわかります。その子は竜の絵を描くためにそのモデルになる竜が載っている本をお探しだったのです。インタビューはさらに続きます。
A「あなたの思っている竜はどんな竜?中国みたいなやつ?(実際には、某有名なアニメに出てくるやつ?と聞きました)それとも、西洋のかな?」
B「中国みたいなやつ!ある?」
ここまで来たら、しめたもの!実際に何冊か見てもらって、自分で選んだ本を借りていってくれました。ほっと一安心の場面です。
質問と対話がうまくいくことで、利用者の「知りたい」をうまく応援できたときは、こちらもハッピーな気持ちでいっぱいになります。このハッピーを味わうために、私は今日も学び、利用者さんと対話しています。
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長田弘 詩, いせひでこ 絵
講談社, 2013