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連載エッセイ うごく・はこぶ 石川敬史

30 「はたらく自動車」という物語を綴る

 筆者自身が研究テーマにしている戦後移動図書館史を辿るため,歴史資料をパラパラとめくっていくと,突然「はたらく自動車」に出会う時がある。

 巡回スポーツ車「ユース号」

 富山県教育委員会にて1960年から巡回を開始した自動車。青少年を対象に富山県内の市町村を巡回し,「スポーツ教室」や「スポーツの夕」などを開催するという。マイクロバス型の自動車には,テープレコーダーを装備し,スポーツ用具(ソフト,卓球,バトミントン,バレーボール,バスケットボール等),レクリエーション用レコード一式を積み込んでいるという。原則4月から11月まで,時間は15時から17時まで(希望により19時から21時まで),富山・高岡地方は1日,他の市と町は2日,村は1日とのことである(『教育広報』11(10),1960.11)。

 移動スポーツ車がうかがいま~す。

 同じような自動車は東京都町田市にも存在した。1973年頃に巡回を始めた東京都町田市の移動スポーツ車である。自動車はワンボックスタイプの小型車で,テニスボール,バトミントン,飛び箱,鉄棒,レクリエーションやゲームの用具も積載するという。「町内会や子ども会,その他十人以上のグループで,なんかスポーツをしたいな,と思ったときは,スポーツ課」へ連絡,と大きく案内されている(『広報まちだ』268,1973.8)。

設備,指導者は全県的に活用!
県教育に一台威力を加える輸送車

 富山産業教育館の輸送車である。大型輸送車「みどり」と中型輸送車「北斗」の2台が1950年代前半から導入されていたらしい。「みどり」は定員43名で大型精密機を,そして「北斗」は小型精密機を積載できる特殊設計がなされているという。これらの自動車によって,富山県内の農業高校などを対象に青年らのへの総合実習を可能としている(『教育広報』4(9),1953.10)。

 ご利用ください みどり号

 東京都小平市の1974年10月から巡回を開始した動く市役所「みどり号」。改造したマイクロバスで市内9ヶ所(約60‐90分停車)を月曜から土曜まで同市内を定期的に巡回。業務内容は,証明事務(戸籍,印鑑等),届出・申請・申込等の事務(住民登録,国民年金等),納税・納入事務(市税・都民税,水道料等)など多岐に及んでいた(『市報こだいら』290,1974.9)。

 教育委員会や自治体が刊行する資料が中心であるが,もちろんこうした「はたらく自動車」は現在走っていない。しかし,こうしてみると,国内において,私たちがあまり知らない「はたらく自動車」が各地を駆け抜け,地域住民が集まっていたことがわかる。いずれの記事も,1ページほどのスペースを大きく使い自動車の写真が掲載されている。写真をじっくり見つめていると,当時,これらの「はたらく自動車」には,大きな期待が込められていたことがわかる。同時に,何か,現在においても活き続けている理念が流れているような気がしてならない。

 ふと,現在の「はたらく自動車」には,どのような自動車があるのか気になった。

 移動図書館車,歯科訪問車,移動献血車,移動診療車,献血バス,レントゲン車,胸部デジタル検診車,TV中継車,移動映像車,移動水族館車,移動動物園車,給水車,床屋カー,銀行カー,移動販売車,コーヒー販売車,ラーメン販売車,地震体験車,活魚車,移動用変圧器車,タクシー,郵便車……

 ここに綴った自動車の名前……,実は,小さな子ども向けの「はたらくくるま」と題した写真絵本から抽出した名称である。パトカー,消防車,ハシゴ車,救急車,クレーン車など代表的でにぎやかな「はたらく自動車」の影に,「移動してはたらく車」,「暮らしを助ける車」,「街ではたらく車」,「暮らしに役立つ車」などの項目としてささやかに紹介されている。

 移動販売車,移動スーパー,移動旅行販売車,ムービングサロン,ステージカー,ビジョンカー,移動銀行車,免震体験車,衝突体験車,降雨体験車,ペット専用移動診療車,アストロカー,移動採血車,胃胸部検診車,胸部検診車,循環器・多目的車,婦人検診車,マンモグラフィ車,移動本屋,移動販売車……

 こちらの自動車の名前は,大人向けの「働くクルマ」と題したMOOK(ムック)などに紹介されている名称である。子ども向けの写真絵本と異なるのは,一つひとつの「働くクルマ」が「解剖」されていることである。これらの「解剖」記事をじっくり眺めていると,時間を忘れてしまうのは私だけだろうか……。

 どのように企画して実現したのか…,設計者は…,自動車の値段は…,誰が運転しているのか…,何を積んでいるのか…,どのような人が利用するのか…,どこに巡回しているのか…,何か課題などはあるのだろうか…,これからどうなるのだろうか……

 子ども向けの写真絵本,そして大人向けのMOOKをパラパラめくっていくと,まずは「はたらく自動車」そのもののメッセージ性を感じ,「はたらく自動車」の写真にひきつけられるが,しだいに,このように自動車の機能や設計,運行方法など,「はたらく自動車」の背景にある物語を自然と想像してしまう。そしてこの物語には,たくさんの人が登場する。

 「はたらく自動車」を発案した人,運行に関わる人,利用する人,サポートする人……,一人ひとりのこれまでの経験,失敗,社会や生活への思い,仕事に対する哲学,自身の人生観……,があるからこそ,「はたらく自動車」は走っていることに改めて気がつく。単に宣伝し,走り,人を集め,「インスタ映え」する光景をつくり,利益を出すことだけが目的ではない。過去と現在の「はたらく自動車」を見つめると,改めて,これらの「はたらく自動車」が背負い続ける「芯」をもう少し読み解いていきたくなった。

<参考資料>
  • 小賀野実『町ではたらく車』JTBパブリッシング,2017.(こども絵本エルライン,4)
  • 五十嵐美和子『はたらくくるまのずかん』白泉社,2018.(コドモエのえほん)
  • 小賀野実『まちではたらくくるま』ポプラ社,2012.(のりものしゃしんえほん,24)
  • 小賀野実『まちではたらくくるま』JTBパブリッシング,2017.(のりもの,10)
  • 海老原美宣男監修『DVD付き はたらくくるま大図鑑』永岡書店,2013.(こども写真ひゃっか)
  • 『デラックス版 じどうしゃ大しゅうごう』講談社ビーシー,2009.(BCキッズ 最新・のりものずかん,12)
  • 『あつまれ!じどうしゃ』永岡書店,2013.(こども写真ひゃっか)
  • 『世界の働くくるま図鑑』上,下,スタジオタッククリエイティブ,2018.
  • 『町で活躍する働くクルマのすべて』三栄書房,2015.(モーターファン別冊)
  • 『男が萌える働くクルマ』ワールドフォトプレス,2014.(ワールド・ムック,1060)

(2019年1月)

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