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連載エッセイ うごく・はこぶ 石川敬史

28「あかし号」,「ひまわり号」,そして「めぐりん」へ

 2018年の夏はとにかく暑い。連日,35度を超える日が続く。文字通りの「酷暑」である。朝から外出しても汗が噴き出してくる。

こんにちは。本の返却ですね。
貸出でお待ちの方,こちらへどうぞ。
予約本の受け取りですね。少々お待ちください。
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 ここは兵庫県明石市の上ケ池公園。山陽新幹線が停車する西明石駅から徒歩で5分ほどの場所であり,グランドが大きく広がる公園の入口(東側)である。ここに,あかし市民図書館の移動図書館車「めぐりん」が停車している。

 「めぐりん」は約3,000冊積載する新しいトラックで,同年7月に巡回を開始したばかりの新車(日野・デュトロ)である。真っ白な自動車であるが,左右には,さかなクンによるタコの絵が大きく描かれている。車外左側に書架(外架)が,車内には左右に書架(内架)が広がる。病院への巡回などで車椅子の方も利用できるように,後方に昇降機が装備され,車内も広い設計になっている。

 この上ケ池公園内東側のステーションでは,14:00から14:50の「開館」である。「50分もの開館時間がある」と思われるが,「来館」する住民は途切れることがない。

 大きな袋を持ってゆっくりと歩いてくるお年寄り,小さな子どもを乗せて自転車でやって来る若いお母さん,自転車で飛び込んでくる男の子,小さな自転車にまたがる小学生,軽自動車で慌ててやってくる女性などなど……。

 とにかくたくさんの地域住民が,サンダル履きで,ふだん着で「めぐりん」目指してやって来る。3人の図書館員の方々は息つく間がない。

こんにちは。本の返却ですね。

 「来館」すると,まず仮設のカウンターで本の返却だ。日差しが強く,「めぐりん」上部に装備されたロール状の庇(オレンジ色)と,キャンプで使用されるような大型のパラソル(深緑色)で日陰がつくられるが,とにかく暑い。

 返却を終えると,「めぐりん」の外架,内架をじっと眺めながら,思い思いに本を手に取る。外架には実用書,文庫・新書,児童書の一部や紙芝居などが,内架には,絵本,児童文学,小説,料理に関する本などが並んでいる。新刊書が並ぶコンテナもある。本の背表紙には,配置場所を示す緑,黄,赤などの透明ラベルが,さらには本を購入した年が書架からわかるように,ピンク,オレンジ,赤などの丸型シールが貼られている。

 「めぐりん」はエンジンを切っているが,驚くことに車内の吹き出し口から冷たい風が出ている。なんとエアコン専用のバッテリー(充電用)を積載しているのだ。今日も外は暑く,「めぐりん」への出入りも多いため,必ずしも車内全体が涼しいとはいえないが,車内に熱がこもることなく,書架から本を選ぶことができる。

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 多くの「来館者」は,ここで予約本を受け取るという。仮設のカウンター後方には,4個ほどの黄色いコンテナが置いてあり,予約本でいっぱいだ。これらの本は,あかし市民図書館にて「めぐりん」出発前に搬入したものである。

 あっという間に閉館時間が迫ってきた。そろそろ撤収の準備だ。この上ケ池公園内東側のステーションに巡回する前は,サバ―ビアシティ21というマンションの広場の一角へ巡回していた。ここでも50分間の駐車であり,多くの「来館者」が「めぐりん」を囲んでいた。この上ケ池公園からわずか徒歩3~4分ほどのところである。

次の弁財天中公園というところは,利用者が多いところですよ。
各ステーションの常連の方はすぐに覚えますね。あれ,今日は来なかったな…,今日は来たな…,なんてことはわかりますね。

 運転手さんは,新車の「めぐりん」が走る以前から,マイクロバス型の移動図書館車「ひまわり号」(日産・シビリアン(3代目))を担当していた経験があるという。息つく間もなく,次の弁財天中公園へと向かう。ここでは利用が多いため,15:00から16:00の60分間の開館だ。

こちらは,あかし市民図書館,移動図書館車「めぐりん」です。これから本の貸出を行います。

 弁財天中公園では,「めぐりん」のスピーカーから軽快な音楽とともにアナウンスが流れる。同公園は先の上ケ池公園から徒歩5~6分のところにあり,子どもたちの遊具や広場,水遊びもできる大きな公園だ。公園内に「めぐりん」を停め,「開館」の準備をしていると,さっそく住民の方々が集まってきた。とにかく人が多く,しばらくすると仮設のカウンターに数人の行列ができる。「開館」して15分ほど経過したであろうか,すでに15人以上の方が「めぐりん」を取り囲んでいる。

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 「めぐりん」が開館する前は静寂な広場・公園であったが,数多くの住民が「めぐりん」に引き寄せられ,にぎやかな場へと一変する光景にはとにかく驚かされる。これだけの利用の背景には,積み重ねられた歴史にヒントが隠されているような気がしてならない。

「図書館の機能がそのまま動く,という視点にできるだけ立つように心がける。」

 この一文は,1981年7月に大型の移動図書館車「ひまわり号」を導入(更新)した際の検討項目のひとつである。この他にも,あらゆる人に利用してもらう,交通事情悪化への対応,紙芝居などの読書の動機づけ,分館・分室網の整備があげられている。さらに歴史をさかのぼると,1962年10月に移動公民館車「あかし号」を導入,婦人会や青年団,読書グループなどへの巡回文庫を拡充し,1963年からは団体貸出の責任者宅を「明石市巡回文庫の家」と指定した。

 同館事務室に大切に保存されている当時の「ひまわり号」のアルバムから,大型紙芝居に集まる多くの子どもたち,「ひまわり号」車内でのおはなし会,公園いっぱいに広がる書架,書架を取り囲む数多くの人々……,子どもたち,大人たち,そして図書館員らの熱気を感じる。「あかし号」,「ひまわり号」,そして「めぐりん」へ。住民とともに育まれ,地域に浸透している明石市の移動図書館。にぎやかな写真をじっと見つめていると,これからの移動図書館の可能性を確信する。

<謝辞>

 あかし市民図書館・移動図書館車「めぐりん」の見学につきまして,同館館長の志水千尋様はじめ,図書館スタッフの皆様には,数々のご配慮をいただきました。ありがとうございました。なお本稿は,JSPS科研費17K04640の助成による成果の一部です。

<参考資料>
  • あかし市民図書館「移動図書館」
    http://www.akashi-lib.jp/bm.html
  • 「めぐりん くるりん 活躍中!」『PRESS+あ:図書館ニュース プレスプラスあ』491, 2018.8.
  • 明石市立図書館編『明石市立図書館10年のあゆみ』1984.
  • 明石市立公民館編『明石市立公民館10年のあゆみ』1970.
  • 明石市教育委員会編『明石市の教育:10周年記念号』1962.
  • 明石市立図書館編『新移動図書館車「ひまわり号」概要』1981.

(2018年9月)

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