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連載エッセイ うごく・はこぶ 石川敬史

26 現場で人を育む移動研修車

コンビニエンスストア初!
ファミリーマート移動研修車「SQC号」導入!

 この見出しは,やや古い記事ではあるが,2003年12月24日に株式会社ファミリーマートが発表したニュースリリースである。これによると同社では,店舗スタッフに対する集合研修をエリア事務所などで実施していたが,遠隔地の場合には移動の制約などがあった。そこで,移動研修車と研修担当本部社員が加盟店を訪れ,各地でハイレベルな研修を受講できる体制を整備したという。「SQC号」の「SQC」とは,サービス,クオリティ,クリンネスの意味であり,移動研修車はS&QC向上を目的に開発された。2004年1月から遠隔地や新規出店地域の店舗を中心に巡回を開始したという。

 約半年かけて製造されたこの移動研修車は,4tトラック(いすゞ・4代目フォワード(FORWARD))の改造車で,運転席後方の室内は約11mもあるという。

白地のボティには,「Family Mart」の文字と,トレードマークの緑とブルーのライン,そして,その下には「移動研修車SQC号」と書いてある(『コンビニ』2004年)。

 移動研修車の写真をよくみると,運転席と後方(荷台部分のキャビン)がつながっていて,かなり大きいトラック(全長7300mm,全高3300mm)という印象を受ける。側面は白色の塗装で窓は見当たらず,出入口としてのドアが1つあるのみのようだ。

キャビン前方3分の2のスペースには,実際のレジカウンターが作られ,レジ2台が設置されている。カウンターの背中側,つまり,キャビン右側の壁面には陳列棚がそっくり再現され,ストアコンピュータやポータブル端末もある。

 「SQC号」の同乗記(『コンビニ』2004年)によると,車内では店舗とほぼ同じ実物を使用しているという。この他にも,VTR視聴機材,ビデオカメラ,研修テキスト,会釈角度矯正器,清掃用具一式,椅子なども装備されている。

 では,この移動研修車にて,どのような研修が行われるのであろうか。先のニュースリリースによると,1回の研修につき最大8人まで,プログラムは「接客」「クリンネス」「サービス」から構成され,1回あたり3時間程度であるとのこと。同乗記には,さらに具体的な研修プログラムが紹介されている。

第1部 導入
 ・本日の目的(10分)
 ・マナー・態度について(20分)
第2部 接客
 ・VTR視聴(15分)
 ・接客実践(45分)
第3部 清掃
 ・VTR・店頭編(5分)
 ・店頭清掃実践(25分)
 ・VTR・床清掃編(5分)
 ・床清掃実践(25分)

 驚くのは訪問予定数である。ニュースリリースによると,2004年度は,上期704店舗,下期696店舗,合計1400店舗に訪問する予定とのこと。仮に1年365日稼働すると,1日あたり3~4店舗にて研修する計算となる……。いずれは2号車,3号車と増やしていきたいという同社の希望も記されている。

 同社のニュースリリースや同乗記から「移動研修車」という存在を初めて知ることとなった。こうした移動研修車は,他社にも存在するのであろうか。調べを進めていくと,古くは,1977年に安田火災海上保険(現・損害保険ジャパン日本興亜)が「移動研修車(Moving Pit)」を竣工させたという記録が残されていた。

移動研修車は“安田自動車損害リサーチセンター”や“実車見積研修室”内にある研修機材を積載して全国を巡回し,査定業務に携わる職員の能力アップを図る……(略)……。(『インシュアランス』1977年)

 この他にも,排気ガス対策車の整備,修復の技能向上のノウハウを広く伝播する目的もあったという。この移動研修車は4.5tの大型トラック(日産ディーゼル・コンドル)の改造車で,後方には各種エンジン・計器類や16ミリ映写機,スライド映写機,OHP,黒板なども積載していた。同社では,1979年に2号車(いすゞ・ジャーニーS)を,1985年に3号車(103号)(日産ディーゼル・コンドル)を製作した記録もあった。2号車は車体修理技法の研修に,3号車はエンジン整備研修の専用車であり,いずれも研修用の教材(エンジン,骨格部材など)が積載された。

 同社の他にも,大東京火災海上保険(現・あいおい損害保険)も1988年に「自動車整備移動研修車」を,東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)も1992年に「テクノトレーナー号」を導入した。とりわけ後者の自動車は,三菱ふそう・大型トラックの改造車(車種は不明)であり,左右が大きくスライドして増床し,研修時(停車時)には26畳分(約43㎡)もの空間ができるという。ここにトヨタと日産のエンジンを積載し,故障診断や整備ポイント,トラブル対処などの研修が開催される。

 現在,各社で移動研修車がどのように巡回しているのかは定かではない。「SQC号」についてファミリーマート株式会社に問い合わせたところ,ここ数年は稼働していないとのことであった。実際の活動の様子を見ることができないのが,とにかく残念である。

 しかし,各社の移動研修車に関する記事をみていくと,社内の研修体制や研修プログラムのすそ野を広げるという意志や,現場を担っている人を現場で育くむという思想……,すなわち,力量形成を単に個人の責として矮小化するのではなく,本部(本社)が,責任をもって人材育成に携わり,現場の人的ネットワーク構築の環境づくりにも積極的に関与していると読み解くことができる。

 当時,移動研修車はいったい何を運んでいたのであろうか。インターネットによる研修プログラムの配信,AIやIotなどの流行が近年忙しなく拡大する中で,現場を訪問し続けた移動研修車の活動には,人間が働くうえで忘れてはならないことが隠されているような気がしてならない。

<謝辞>

 株式会社ファミリーマートのご関係の皆様には,突然の連絡にも関わらず,丁寧にご対応いただきました。ありがとうございました。

<参考資料>
  • 株式会社ファミリーマート「コンビニエンスストア初! ファミリーマート移動研修車「SQC号」導入!」2003.12.24.
    http://www.family.co.jp/company/news_releases/2003/20031224_01.html
  • 株式会社ファミリーマート環境推進部『ファミリーマート社会・環境報告書2004』
    http://www.family.co.jp/company/csr/engagement/annual_csr_report_consolidated/arc_04.html
  • 山本明文「ファミリーマートの『SQC号同乗記』遠隔地のスタッフ研修に移動研修車は引っ張りだこ」『コンビニ』7(6),2004.6,p.64-67.
  • 「移動研修車で竣工式:安田火災 一層のサービス向上へ」『インシュアランス』2811,1977.10,p.16.
  • 「移動研修車第2号が誕生:車体修理技法の研修に使用」『インシュアランス』2885,1979.5,p.16.
  • 「移動研修車(ムービング・ピット)一〇三号を製作:エンジン整備研修の専用車」『インシュアランス』3170,1985.4,p.9.
  • 「自動車整備移動研修車を配備」『インシュアランス』3335,1988.9,p.22.
  • 「動く実習室稼働開始」『自動車工学』41(9),1992.7,p.180-181.

(2018年7月)

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