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連載エッセイ ROCK司書のセンチメンタル・ライブラリー 若園義彦

第11回 <図書館のおと>

挿絵

通用口のドアを開けて職員が入ってくる。
タイムカード打刻。ロッカーの扉の開閉。
階段を降りたり昇ったり。
遠くから聞こえるラジオ体操の音楽。
PCが起動する、そこかしこで。
掃除機。 電動ロールカーテンが巻き上がる。
返却ポストに本が入れられる。そこから回収された本がブックトラックで運ばれる。
返却処理のため、バーコードが読み込まれる。その本が運ばれ、書架に戻される。

開館時刻を知らせるチャイム。
スライドドアが開かれ、待っていた人たちが足早に駆け込んでくる。スニーカー、サンダル、革靴、パンプス、ヒール、ブーツ…。
「おはようございます」「おはよう」「おはよう」
新聞を開く。雑誌をめくる。本を書架から取り出す。
返却本がカウンターに積まれる。
財布から利用カードを取り出す。
「予約本の用意ができたと…」「はい、確認しますね」
「〇月×日までにお返しください。ありがとうございます」「ありがとう」

挿絵
PCのキーボード。鉛筆でノートに何か書いている。消しゴムでごしごし、あ、そんなに焦ると…「びりっ」ああ…。
赤ちゃんの泣き声。
「元気だねえ」「すみません、お騒がせしてしまって…」「いいのいいの、赤ちゃんは泣くのも仕事」「ありがとうございます」
貸出貸出貸出、返却返却返却…。

 図書館は音であふれている。
 図書館で出る(立てられる?奏でられる?)音に対しては寛容に、という流れがあるように感じる。図書館は静かに過ごすところ、という「常識」が和らいできている。それはひとつには、図書館を「人の交流の場」と捉えることが増えてきたからだろう。
 新しくつくられる図書館には「静寂読書室」や「静かな部屋」があったりする。つまりそこ以外の場所では、そんなに静かにしなくてもだいじょうぶ、ということだ。
 ピアノが置いてある図書館もあるし、音楽イベントが行われることもある。
また、おしゃべりを楽しむスペースを限定的に準備してある図書館もあるし、「館内ではお静かに」という表示を見かけることもある。それもその図書館に携わる人たちの考え方で、どちらが良い、悪いというものではない。しかし現在の趨勢としては「人の交流、音容認」に分があるのではないか。
 人の考え方や世の趨勢は動いていくものだから、図書館の音に対する考え方も変化していくだろう。それを予想するのも楽しい。

挿絵

カウンターの前を駆け抜ける小学生。
「走ると危ないよ!」
「○○さん、ひさしぶり。元気だった?」「ああ、ちょっと旅行に行っててね…」
将棋盤に駒が打ちつけられる。
「待った!」「待ったなし!」
「この本ってありますか?」「はい、お探ししますね」
貸出貸出貸出、返却返却返却…。
咳払い。
視聴ブースから漏れ出る映画音楽。
「ちょっとお尋ねしたいのですが」「ええ、どうぞ」
閉館時刻を知らせるチャイム。
「本日はご利用いただきありがとうございました…」と館内放送。
ゆっくりと出ていく人たち。
閉められるスライドドア。

タイムカード打刻。ロッカーの扉の開閉。
「お疲れさまでした」
通用口を閉め、出ていく職員。
朝までの静寂。
明日はどんな音を聞くことになるだろう。

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