back number

連載エッセイ ROCK司書のセンチメンタル・ライブラリー 若園義彦

第37回 <男には向かない職業>

 「なんで図書館で働いてるの?」
 そう聞かれたのは、手ごたえのある調べものが一段落して、少しほっとしたタイミングだった。相手はその調べものの依頼者で、年配の男性。長年続けてきた家業を息子さんに譲って悠々自適、そして好奇心旺盛な図書館ヘビーユーザー。レファレンスカウンターにもよく寄ってくれて、調べものの相談もときどきされる。そんな方だ。
 この手の質問には(ときどき聞かれることがあるので)いくつかのパターンの答を用意してあるのだが、今回はこれだろう。
 「人が知りたいことを知る、そのお手伝いをするのが好きだから、ですかね…」
 今回はそのお手伝いができた、という慢心か、相手が気安い常連さんだったというのもあったのかもしれない。少し調子に乗った答だ。それが「正解」でなかったというのは言ってしまった瞬間に気づくものだ。
 「ふーん。そういうもんかね。チカラ強そうだけどね」
 こちらの二の腕あたりに視線をやりながら、そう言って笑う。そういうことか。もちろん図書館にも力仕事はある。しかしそんな説明をするのもちょっと違う気がした。この方の言っている「力仕事」とはレベルが違うだろう、と。そこで、
 「チカラありますよ!ま、○○さんには負けますけどね」
とごまかした。
 「ははは、鍛え方が違うからね。いやいや、気にしないでくれ。男なのになあ、と思っただけ。じゃあまた来るよ」
 男なのに図書館員。これはちょっと重いなあ、と思った。軽蔑とか侮蔑とかではない、ちょっとした違和感なのだろう。そんな口ぶりだった。それはそれで重い。

 数で言えば女性職員が多い図書館現場。いろいろと理由はあるだろう。しかし仕事の内容については、性別で向き不向きがあるとは思わない。思わないけれど現実には引っかかることがときどきある。
 「男性職員は子ども室のカウンターに入らないでほしい」という意見(というかつぶやき)を、図書館員から聞いたことがある。「男性を怖がる子どもがいるから」というのがその理由だった。それはまあ、そういうことはあるかもしれない。しかし、だからと言って男性をカウンターから外して図書館の子ども室内に小さな「男性のいない世界」を作ってしまってよいかというとそうではない気がする。
 そういった議論もなくはないのだろうけれど、広く共有されているとは言い難い。いろんな立場からの、いろんな意見を聞いてみたい。
 図書館員は女性の仕事。そういう考えがあるのだとしたら、これは図書館員という仕事への偏見であり、女性への偏見であり、同時に男性への偏見である。どれも放置してよいものとは思えない。
 ただ、ひとりひとりの図書館利用者に「男性ですが図書館員ですっ」と言い続けているわけにもいかない。図書館に来ない人にはなおさら。ここはやはり、そんな本があったらいいな、ということになる。知っていたら教えてもらえると嬉しい。そしてなかったら?つくればいい。誰にでも読みやすくて「男性の図書館員もいるんだな、いいんだな」と思ってもらえそうな本。

さてそのタイトルは…。
 『男たちの図書館』。これはストレートすぎるか。
 『男には向かない職業』?P.D.ジェイムズ(『女には向かない職業』早川書房 1987年)のパクリだけど…どうかな?

挿絵
Copyright (C) yukensha All Rights Reserved.

design テンプレート