back number

連載エッセイ ROCK司書のセンチメンタル・ライブラリー 若園義彦

第1回 <「センチメンタル・ライブラリー」とは何か>

 あなたが最後に図書館に行ったのはいつだろう?
先週、借りていた本を返して、また新しい本を借りてきた? 素晴らしい! 引き続き図書館をご利用いただきますよう!
 では。
 数年前? 十数年前? 数十年前? え、図書館に行ったことがない?!
 そんなあなたはラッキーだ。ひさしぶりに、もしかしたら初めて、図書館に行ってみたら、記憶の、または想像の中の図書館と違ったものに出会い、それを楽しむチャンスがある。
 もしかしたらそこは、有名な建築家によって設計された、新しくて明るくて居心地のよい空間で、本や雑誌を読んだり借りたりするだけでなく、音楽や映画を楽しんだり、館内のカフェでゆっくりとコーヒーを飲んだりして、一日中いたくなるかもしれない。
 新しい図書館でなかったとしても、建物は築数十年だったとしても、一歩足を踏み入れると、そこには図書館員が心を尽くして工夫した展示や手書きのPOPが、あなたを知らなかった世界へ誘うかもしれない。郷土のことを知って、あらためてそこに住むことを誇りに思うかもしれない。
 表面上の新しさだけではない。図書館が「本を貸す」以外にどんな機能を持っているかなんて考えたことがあっただろうか。「まちづくりに貢献する機関」とか「地域の課題に取り組む」とか「まちの情報基盤」とか? 図書館では(意外と)新しいことが起こり続けているのだ。
 そんな新しく、未知の、わくわくする体験をする可能性をあなたは持っている。

 そして同時に。あなたは記憶の中の図書館に再会し、想像通りの図書館に出会うかもしれない。
 家にいたくなくて外に出てみたものの他に行くところが思いつかず、図書館で暖を取った冬の日。
 「勉強」と称して集合したものの、おしゃべりばかり盛り上がり、ちっとも勉強が捗らなかった、あの懐かしい顔ぶれ。
 隣のクラスの文学青年/文学少女が佇んでいた本棚のあたりに立ち、彼/彼女が読んでいたのはどの本なのだろう、と思いを巡らせたあの日の切なさ。
 仕事の調べもので訪れて、ライバル会社の社員と鉢合わせしたときの何とも言えない気分。
 あなたの子どもが初めて「お気に入りの絵本」に出会ったときの笑顔。
 一生かかっても読み切れないほどの本がある、と知って実感した自分自身の存在のはかなさ。
 図書館には、そんな感傷が溢れている。

挿絵

 このセンチメンタル・ライブラリーは、あなたがいつかどこかの図書館で出会った、または出会っていたかもしれない、そんな感傷の欠片を収集し、提供し、保存する図書館だ。普通の図書館にあるような、実際に役に立つ最新の知見や情報はないけれど(いや、たまにはあるかもしれないけどさ…)そんな感傷を眺めて「ああ、図書館ってそんな感じだったかも。行ってみようかな」と思ってもらえたら嬉しい。
 しばし、おつきあいを願いたい。

Copyright (C) yukensha All Rights Reserved.

design テンプレート