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連載エッセイ ROCK司書のセンチメンタル・ライブラリー 若園義彦

第35回 <おすすめ本探偵>

 図書館に行くと、いつもの特集コーナーが「図書館員のおすすめ本100冊」という企画になっていた。これは毎年やっている企画で、楽しみにしているものだ。いろいろなジャンルの本が100冊選んであって、それぞれに手書きのおすすめコメントが貼られている。
 今年はどんな本が、と思い眺めていると「こんにちは」と声をかけられる。顔見知りの司書さんだ。

「今年もこの企画の時季ですね。これ面白いです。楽しみにしてるんですよ」
 「ありがとうございます。そう言っていただけると励みになります。本を選んだり、コメントを考えたり、リストを作ったり、と手をかけてますからね。」
 「ふだん自分で選ばないような本に目が行くのがいいんです。気がつかないジャンルの、聞いたことのない著者の本とか」
 「はい、そういう出会いのお手伝いをできたらいいな、と思いますね。それは利用者のかた、というか、市民というか読者というか、とにかく人にとっての本との出会いということはもちろんあるんですけど、本にとっての人との出会いも増やせたらな、というところもあります」
 「本にとっての人との出会い…」
 「「図書館学の五法則」ってのがあってですね、そのひとつが「Every book its reader.」ってものなんですね。「いずれの本にもすべて、その読者を」と訳されたりしますけど。つまり、どの本にもその本を必要としている人がいるはず、って思うんですよ。その出会いに立ち会ったり、ときには仲立ちしたりできるのが図書館員の喜び、って言ったらおおげさかな…。スミマセン、長々と話しちゃって」
 「いやいや、本の立場に立って考えるんですね、面白いな。「図書館学の五法則」ですか」
 「ご希望でしたら関連の資料をご案内しますよ」
 「ありがとう、お願いしようかな。その前にこのおすすめ本企画なんですけど」
 「そうそう、その話でした」
 「これはどなたが選んでいるんですか?特に本に詳しい職員さんとか?」
 「いえ、この企画はここで働いている図書館員みんなで選んでいます。本を紹介するのは楽しいのと同時に勉強になりますからね、全員がその機会をもてるように、と。単純に割り算で、ひとり7冊、または6冊」
 「そうなんですね。司書さんのおすすめは?」
 「私ですか、私のおすすめは…」
 急に閃いた。
 「あ、ちょっと待って。どの本を選んだか、当てさせてください!」
 「え、推理するんですか?面白そうですねえ」
 「急に思いついちゃって。しかし何かヒントは欲しいですね」
 「ヒントですか。そうですねえ、ここに並んだ本を見てくれた人が「自分に関係のある本は1冊もないな」と思わなくてすむように、7冊の中でできるだけ広い範囲をカバーしたつもりです。それと、さっきの話ですけど、あまり出会いに恵まれてない本には少し肩入れしちゃうかな」
 「なるほど、何となくヒントになってますね。じゃ考えてみます」
 「正解されたら賞品として「図書館学の五法則」について詳しい資料をご案内しますよ、無料で!」
 「それは嬉しいな、正解しないといけませんね」
 「いや、もちろん冗談ですよ。正解ゼロでも、もちろんご案内しますからね、無料で!」
 「ふふふ、わかってます。じゃあ少し時間をください」
 「ごゆっくりどうぞ」

 司書さんは軽く笑うとカウンターに向かっていった。さて、おすすめ本、正解はどれだろう。広い範囲をカバー、と言ってたな。ではまずこの絵本から。私は1冊を選び、お気に入りのソファで読み始めた。

挿絵
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