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連載エッセイ ROCK司書のセンチメンタル・ライブラリー 若園義彦

第8回 <明日>

 突然の雨。ギターを背負った彼女が雨宿り先に選んだのは図書館だった。まあそこが一番手近な建物だったわけだけど。
 玄関ホールを入ったところにベンチがある。彼女はそこに荷物を降ろすと、リュックから出したタオルで、自分のずぶ濡れのアタマなんかはほったらかしで、ギグバッグを拭きだした。こういうところがいいんだよな、とオレは思った。もちろん、同じようにずぶ濡れのオレにタオルを差し出したりもしない。

「急に来たよね、雨。楽器、だいじょうぶかな…」
「防水じゃないんだっけ?まあだいじょうぶなんじゃない?」
「他人事だと思って~。いいよね、荷物軽い人は」

と言ってオレのスティックケースにわざとらしく目をやる。

「ああ、ごめんごめん」
「謝るな!冗談だよ。ああ、しかし本借りたいなあ」
「借りてきゃいいじゃん。カード忘れたとか?」
「いや、文化祭のライブが終わるまで『図書館断ち』してるんだよ。本借りると練習時間が短くなっちゃうでしょ、どうしても」
「そりゃまあそうだね。てか本読むんだっけ?しかも図書館で借りて?」

 そう言えば本の話なんてしたことがなかった。いつも音楽、というかロックの話ばかりで。

「うん、まあフツーに読むよ。中学の頃は部活が忙しすぎてあんまり読めなかったけど、最近はここにもよく来てる、週末とか。本だけじゃなくてCDもあるし」
「CDあったっけ…。オレも小学生のときはけっこう来てたんだけどな」
「はは、じゃ見てってみなよ、けっこうあるから。ツェッペリンとか全部あるよ、ブルースもまあまああるし」
「へええ、そりゃいいね!え、で、本とか、どんなの読むの?」
「小説とかも読むし、音楽関係も読むよ。でもね、音楽とか全然関係ないと思ってた本が、読んでみるとスゲエロックだったりするんだよね。そういう意外な出会いがあるのがいいのかな、図書館って」
「ふうん、そう言われると寄ってみたくなるね」
「じゃさ、『○○○○』って本、読んだことある?」
「いや、ないな」
「読んでみなよ。キミ、好きだと思うよ」

この後、彼女がオレに紹介してくれることになる膨大な本の、最初の一冊だった。それが何だったかは誰にも教えない。

「私は『図書館断ち』中だから、帰って練習するよ、雨も上がったみたいだし。じゃ、また明日」
「うん、また明日」

 明日また会える。今教えられた本を読んで、ブルースのCDも聴いて、そのことを明日話そう。そう思うと、この図書館には「明日」がいっぱい詰まっているような気がした。

 明日はいつもすぐそこにあって、オレたちを待っていた。オレはその本を探しに、図書館へ入っていった。

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