back number

連載エッセイ ROCK司書のセンチメンタル・ライブラリー 若園義彦

第24回 <チェックイン、チェックアウト>

 図書館の本などの「貸出」を、英語では「check out」(チェックアウト)というようだ。ならば「返却」は「check in」(チェックイン)ということになるのか。「check」という動詞にはさまざまな使い方があるから、そのうちのひとつなのだろうけれど、なんだか面白い。

 チェックイン、チェックアウトと聞いて思い浮かぶのはホテルなどの宿泊施設だ。
 カードキーを回収ボックスに入れるだけでチェックアウト完了、というホテルがある。たしかに最近のホテルでは、室内の電話を使ったり、ミニバーのシャンパンを飲んだりしないので(最近というか一度も飲んだことがないが)チェックアウト時に精算をするような機会は少なく、カウンターに立ち寄る必要はなくなっているかもしれない。
 そういった方式では、人と話さなくてよいという気楽さがある一方、滞在時にうけたサービスへの感謝(またはサービスの不備への苦言)を伝える機会が減ってしまうという寂しさも感じる。そういうのも予約サイトなどでどうぞ、ということなのかもしれないが、特に感謝方面については直接伝えたいような気がする。

 図書館の本のチェックアウトにもセルフ方式がある。利用者からすると「どんな本を借りるのか」図書館員に知られずにすむ、という利点がある。もちろん図書館員は利用者が何を借りようと口外するようなことはないし(こういうことはちゃんと知っておいてもらえるよう広報しておきたいところだ)、何か驚くような本を借りたところで、内心が顔に出てしまうような初心な図書館員もあまり(あまり、ね)いないだろうけど、利用者にとっては図書館員も「人」である。セルフ方式を利用したいということもあるだろう。
 セルフ方式チェックアウトには「利用者の利便」ということもあるが、図書館側からすると「人的資源の有効活用」(ありていに言えば、チェックアウトカウンターの人員削減)という面もある。「貸出の手続きに割く時間を、別の、もっと有効な仕事に使うことができる」という考え方だ。そういう目的のため、セルフ方式チェックアウトに利用者を誘導するためのインセンティブをつけている図書館もある。
 人員削減ということで言えば、本を持ってゲートを通るだけでチェックアウト完了、というようなシステムも開発されているそうだし、海外では「無人の図書館」もあると聞く(国内でも実験事例はあったようだ)。図書館から図書館員の影が消えていくのが時代の趨勢なのか…。
 いろいろな考え方があるが、カウンターでのコミュニケーションを楽しんでいる利用者(と図書館員)は少なからずいるし、そこで得られる情報を図書館運営にフィードバックしたいと考える図書館員もいる、というのが今のところの現場の実感ではある。

 さて、ホテルと図書館に共通するのは(どちらかというと)目的地というよりは経由地である、というところではないだろうか(目的地にしたいようなホテルも図書館もあるけれど)。チェックイン(ここは本のチェックインではなく人の、つまり「入館」ということになるが)して英気を養い、必要な情報を得て、目的地に向かっていただきたい。図書館のチェックイン、チェックアウト(入館、退館)はお気軽に。宿帳の記入も、予約番号も、スマホ認証も生体認証も必要ない。少なくとも今のところは。

挿絵
Copyright (C) yukensha All Rights Reserved.

design テンプレート