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連載エッセイ ROCK司書のセンチメンタル・ライブラリー 若園義彦

第17回 <あの夏>

 「あの夏」と言われたら「どの夏」を思い浮かべるだろうか。あの本と出会った夏。あの人と別れた夏。何かが終わり、何かが始まった夏。いろいろな「あの夏」がある。

 夏を歌った曲は多い。『サマータイム・ブルース』は「金がない」「クルマがない」「働かなきゃならない」といった、若者が日常の不満を叫ぶ歌。エディ・コクランがオリジナルだが、多くのカバーバージョンがある。RCサクセションの、反原発のメッセージをこめた替え歌バージョンも有名だ。

 『サマータイム』もタイトル通り夏の歌。「夏になれば暮らしは楽になる。魚が跳ねて綿の木は育つ。だから泣かないで」という子守唄だ。ジョージ・ガーシュインがオペラのために作曲したものだが、こちらもビリー・ホリデイをはじめとして広くカバーされている。Wikipediaによれば2600以上のカバーがあるとのこと!

 この2曲、「夏だ、海だ、楽しいな」みたいな雰囲気は皆無で、曲調はそれぞれだが、生まれ持った業や悲しみみたいなものに、夏の暑さが重みを加えているように聞こえるところが共通している。どちらも実に上手く「夏」という季節を表現している。夏には、他の季節とはまた違った「重み」がある。

 さて、この2曲が同じステージで演奏された夏があった。1969年8月15日から18日朝まで、アメリカはニューヨーク州サリバン郡ベセルで開催された野外コンサート、ウッドストック・フェスティバル(Woodstock Music and Art Festival)でのことだ。これは単なるコンサートというよりも、ひとつの時代を象徴する出来事、とでも言うべき存在感を今も湛えるフェスティバルだ。そのフェスで、『サマータイム』はジャニス・ジョプリンに、『サマータイム・ブルース』はザ・フーによって演奏された。

 ロックファンにとってはもちろん、カウンターカルチャーや「愛と平和」なんて言葉に反応してしまう人々にとっては特別「あの夏」に感じられるのが1969年の夏になるのかもしれない。これは直接体験していようがいまいが、生まれていようがいまいが、関係ないのではないか。

 その1969年から50年がたった。開催が予定されていた50周年のフェスは中止になり、いよいよ「あの夏」の伝説感も増した。残された音楽や映像でその空気を想像するのもいいし、関係者の声が記録された本で内情を知るにもいいタイミングと言えるかもしれない。フェスを主催したマイケル・ラングの『ウッドストックへの道』(ホリー・ジョージ-ウォーレンとの共著 室矢憲治/訳 小学館 2012)は開催までの内幕にも詳しく触れられていて読みごたえがある。

 どの夏もいつか「あの夏」になる可能性をもっている。「この夏」をどんな「あの夏」にするのかは、もちろんあなた次第だ。

挿絵
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